桃園物語 第6話
ピーチガーデン 第六話。
賊に囲まれた劉備であったが、間一髪、張飛によって救われる。その続きから。
劉備と張飛の会話。
劉備、
と、ところで、虎ヒゲくん、君のその黄巾の出で立ち、さては君も黄賊の一味なのか?
で、でも、どうして僕を助けてくれたのか?もし良かったら話してくれ。
張飛、
あぁ。あはははは。これかい?
ふん、こんなモノ、もはやどうでもいい!
と、すぐに黄巾のバンダナを土へ放り捨ててしまった。
劉備、
ん?んん?
張飛が事情を説明する。
それがしは見なりこそ賊の一味と思われるかもしれんが、実は身を偽っていただけでござる。一時賊と共に潜んで、令嬢を救う機を伺っていたのでござる。
劉備、
ほ、ほほう。あの佳人を救いに、ですか?
張飛、
そうでごさる。あの方は名を芙蓉( フヨウ) と言い、以前それがしが仕えていた屋敷の令嬢でござる。それがしは、そこの用心棒であったというわけでござる。
劉備、
ふ、ふーん。そ、それで?
張飛、
が、しかし、それがしが不在の時、屋敷が黄害に襲われしまい、 それ以来、令嬢の行方がわからなくなってしまったでごさる。で、それがしは情報を得るべくして賊の一味に身を置いて、しばらくはナリを潜めていた、というわけでござる。
劉備、
な、なるほどね。あい分かった。
張飛、
ところで、これは貴兄のモノではござらぬか?
と、見覚えのある小瓶と宝剣を差し出して言った。
劉備、
お、おおお!こ、これはいかにも、生命の次に大事としている洛陽の銘茶の小瓶、そして父の形見の宝剣じゃないか!ど、どうして、これを君がお持ちなのか?聞かせてくれるか?
張飛、
貴兄らの噂を聞きつけた時、賊の一人から取り上げた次第でござる。さ、どうぞ、受け取られよ!
劉備、
あ、あ、ありがとう!ま、まさか、こうして再び我が手中に戻るとは、、なんたる幸運!
し、しかし、君は生命の恩人、何か御礼をしなければ、と思いますが。
ううむ、、何か挙げられるモノと言えば、今はこの銘茶の小瓶か形見の宝剣しか持っていない。
ううむ、、うむ!そ、そうだ!
き、君!是非ともこの宝剣を、持って行かれよ!
張飛、
しかし、それは父の形見ではござらぬか?
いや、いや、いや、簡単に頂くわけにはいかぬ!
劉備、
い、いや、生命の恩は、この宝剣でなければ、きっと贖えません。それに、自分は農村出身であるから、あまりこのような刀を使う必要はない。むしろ君のような勇猛な武士にこそ相応しいように思える。お茶の小瓶は母への土産として買ったものだからあげられぬが、この刀なら差しあげても別に惜しむことはない!
さ、ささ!是非とも受け取られよ!
張飛、
そ、そんなに言うのであれば、ありがたく頂戴すると致そう。
実は、それがし、この宝剣、一度見た時からひそかに格好イイなぁと憧れていたでござるよ。
一武士として、このような宝剣を携えることが出来るとは、誠に光栄でござる!
と、張飛は、嬉しそうに刀を何度も何度も抜刀しながら、しばらく嬉しそうに眺めていた。
すると、そのうち、
ぅ、ううん、と佳人の意識がようやく戻り始めた。
張飛、
ご令嬢、気がつきましたか!
芙蓉、
あ、あれ、あなたは張飛ではありませんか?一体何故ここへ?
張飛、
令嬢を助けに来た、でござるよ。ここに居ては、すぐに追手が来るやもしれません。ささっ、西南にある集落へと共に帰りましょう!
と、令嬢を賊の馬に丁重に乗せ、劉備に別れの挨拶をした。
張飛、
では、我らは西南にある集落へ帰るといたす。貴兄はどうなさるか?
劉備、
僕は、楼桑村にある家に帰るとするよ。お茶もこうして無事に戻って来たしね。
張飛、
では、またいつの日か!
劉備、
うむ、それでは!バイバーイ!
と、劉備は護身用にと、賊の持っていた刀を拾い、また賊の馬に乗って、故郷のある方角へと走り去って行った、、。