桃園物語 第13話 母者咖喱
The Peach Garden 桃園物語
第13話 母者咖喱
季節は3月の下旬、毎年この時期になると、楼桑村では桜や梅の花がいよいよ満開となる。とりわけ劉備の近所にある桃園は、数々の桃の木が、百花繚乱とばかりに咲き誇り、ちょっとした花見の名所となるのであった。
そんな美しい花々を眺めていると、人々は、近頃の宦官による政治腐敗や黄賊の害毒といった世の乱れなどは、遠い外国のお話とさえ思えてくるのであった。
ここ楼桑村での劉備の日常は、貧しく単調ではあったが、少なくとも平和であった。
朝は早く起き、昼は畑仕事に精を出し、夜には蓆を織り、そして寝る前に少し本を読むというのが、この村における劉備の基本的な生活だったのである。
"あ〜、腰が痛い、、。そろそろ休憩にしようか。今日はいい天気だなぁ。ここでこうしていると、世の中の乱れが嘘のようにも思えてくる"。
劉備にとって、庭の畑仕事は、世の中の憂いや自身の悩みなどを、たとえ一時的にでも忘れさせてくれる特別な趣味の時間でもあった。
" 今年の春はミニトマトでも植えてみようかな?"
そんなことを考えていると、、、。
遠くから、聞き覚えのある声が聞こえた。
"うほーい!うほーい!りゅうくぅ〜ん!"
声の主は張飛であった。
"やぁ、その声はひー君じゃないか!今日はよく来てくれたねぇ!"
二人は十年来の親友の再会のように、実に親しく挨拶を交わした。
劉備、
"あれ?ひー君、君の兄貴は一緒じゃないのかい?"
張飛、
"あぁ、そのことなんだが、、実はちょっと話しがあるんだ。"
石の腰掛けに座り二人は話を続けた。
" あれから、アニキのところへ行って例の話をしたんだが、、、兄貴がりゅう君のことを頭っから疑って、俺の話をまったく信じてくれないんだよ。なんとも頭の固いアニキだよ、、"
劉備、
"まぁ、無理もないだろうねぇ。"
張飛、
" それで、考えたんだが、、りゅう君をアニキのところへ連れて行くってのはどうだろうか?実際に会ってみれば、アニキもきっと信じるだろうと思うのだが、、"
劉備、
" うーん、信じないものに、信じろって言うのもなんだかなぁ、、"
劉備がいつもの優柔不断な態度をとっていると、遠くから" お昼ですよーっ"という母の優しい声が聞こえた。
" あらっ?アビーや、お友達が来ていたの?"
劉備、
" はい、このお方ですよ。以前話した豪傑というのは。"
張飛、
" 母君、拙者は張飛、字は翼徳でござる。本日は、ご子息に一つ相談があって伺った次第でござる。"
劉備母
"お話はかねがね聞いております。その節は、いろいろと劉備がお世話になりました。そのお礼ではありませんが、もしよろしかったら、お昼にカレーライスでも一緒に召し上がってはいかがでしょう?"
と母がすすめると、
" これはありがたい!カレーは拙者の大好物でござる!"
と張飛は非常に喜んだ。
劉家キッチンにて、
張飛、
"いやぁ、これは美味!りゅう君の
母者人が作ったカレーは誠に美味しいでござるなぁ!"
母が"お代わりはいかが?" と勧めると、張飛はかたじけないとばかりに、結局三杯のカレーをペロリと平らげてしまった。
話題が、関羽の話しに及ぶと、
母は、これも何かの縁だと思って行ってあげなさい、と劉備を促した。
劉備も"マミーがそう言うならば、行ってみるか。"と、その気になってしまった。
"母君、りゅう君のことはこの張飛に任せて、どうか安心して待ってくだされ!"
と、張飛が機嫌よく言う。
劉備母も
" 張飛殿のような豪傑が一緒なら、この母も安心です。ですが、くれぐれも気をつけて行ってください。"
と言って二人を見送った。