桃園物語 第1話
三国志 歴史文学 七実三戯のバランスで描く現代風味歴史スペクタクル群雄劇!どうぞご賞味ください!
The Peach Garden 桃園物語
第1話
紀元二世紀後半の大陸のお話。
漢王朝の権威が没落し、世が乱世を迎えていた時代、悠久なる黄河を見つめながら佇んでいる一人の青年がいた、そうな。
その名は劉備、字名を玄徳という若者であった。
年若く、二十代前半と思われるその若者は、大河を見つめながら一人ボンヤリとずっと考え事をしていた様子であった。
そこへ、ある一人の役人が現れ彼を不思議に思い、問いかけた。
ご役人、
君は一体こんなところで何をしているんだい?
若者曰く、
僕はただ、洛陽からやって来る船を待っているんです。お茶を買おうと思ってまして、、。
役人、
はてな?
お茶を買うなんて、この若者は一体何を考えているのだろう?怪しい奴だ、と役人は思った。
この時代、お茶は非常に高価な物で、とてもじゃないが一般庶民が買えるような代物ではない。ましてやその若者の見てくれが、粗末なナリをしていたので、とても茶を買える金を持っているようにはまったく見えなかったからである。
役人、
君はお茶というモノがどういうモノか知ってるのかい?近頃の人々は茶と称して、その辺の草を煎じて飲んでいるらしいが、あんなものはお茶ではないよ。
若者、
いいえ、僕が欲しいのは正真正銘、洛陽の本物の銘茶です。僕はそのために洛陽から来る船をずっとこうして待っているのです。
役人、
そうかい。そうかい。でも、お茶はとても高いだろうに。お金はちゃんと持っているのかい?
劉備、
はい。僕は農村出身の貧しい草鞋売りですが、二年間苦労して貯めた貯金がございます。
役人、
なるほど。でも、どうしてお茶を買おうと思ったんだい?洛陽の銘茶はとても我々庶民が買えるような代物ではないよ。
劉備、
母にプレゼントするためですよ。普段から苦労ばかりかけて来ましたからね。死ぬ前に、もう一度お茶を飲みたいと、以前母がおっしゃっていたので。
役人、
なるほど、なるほど。君は感心な若者ですな。でも、気をつけ給え。近頃は、黄巾の賊どもが強奪、略奪を企み商人達を狙ってこの辺りをウロウロしているからねぇ。
役人はそう言って、早々に立ち去っていってしまった。
やがて、洛陽からの船が来て、劉備は、商人から持っているお金の分だけのお茶を無事に買うことが出来、その晩は宿屋に泊まることにした。
その夜、
劉備は外が何やら騒がしいことに気づいた。何やらワァー、ウギャーッという阿鼻叫喚の声がする、、、。
すると、そこへ宿屋の主人が大慌てで劉備の部屋へと入って来た。
宿屋の主人、
き、君、早くここから逃げ給え!!こ、黄巾の賊どもが、町を、商人たちを、襲っている!も、もはや、ここも危険だ!!
劉備、
わ、わかりました。そ、それでは!ご、ご主人も気をつけて!で、では、おさらば!!
劉備は、走って逃げ出した。出来る限り、体力の続く限り、遠くへ遠くへ走って逃げた。
彼自身は、至って貧しい若者に過ぎないのだが、今この瞬間は、洛陽の銘茶が入ってる小瓶、そして、父の形見である護身用の宝剣を所持している。其れらは、いかにも黄巾の賊どもが目をつけそうな代物だ。もし賊に見つかったら、間違いなく強奪されるだろう、と恐怖した。
必死に、遠くへ、遠くへ、逃げ延び、よもや、ここまで来れば賊に会うこともないだろうと、思える様な所まで逃げ延びたところ、劉備は慢心してしまい、ゲスな黄巾の賊どもへ、ストレス解消するが如く罵詈雑言、大声で空へと罵った。
するとすぐに、
ん???
だ、誰だ!?
誰だ!!?
今、俺たちのことを罵った野郎は?
出てこい!!
劉備、
え!?まさか?見つかった!?
黄巾の賊、
オマエか?この野郎!今、我々を罵ったな。このヤロー!引っ捕らえてやる!
あぁ無念、劉備は黄巾賊に縄で捕らわれてしまった、、、。
が、
幸か不幸か、
命だけは助かった模様。
それは何故か?
次回へ続く。