表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

心機一転、下学上達というやつですよ!

インプちゃん達は無事この危機から逃れることができるのか……第二話です!

「魔王さまのデタラメさは理解していたつもりでしたが……まさかここまでチートだったとは思いませんでしたよー」

 インプは魔王の肩に留まり、空に浮かぶ巨大な月を眺めながらそんな気は全然感じられない声音で呟いた。玉座の間に(というか魔王城そのものに)天窓といったオシャレ構造は無く、普段ならここから月など見えないのだが……そこは粋な魔王さま。つい先ほど城を半分消し飛ばすという匠の業で見事、暗く陰湿な玉座を夜風吹き込む素敵なテラスへとリフォームしたのであった。

「ちっ……。苛立ちが収まらねぇ……」

「これだけ派手にやっておいて、まだ暴れ足りないんですか? まあ、新しく可愛らしい感じのお城を建てて下さるのであれば止めませんがー」

「……勝手に俺の城をぶっ壊すな。……俺もこれ以上は壊さん」

 大分信憑性の無くなってきた魔王の発言だったが、流石に自分の居住をこれ以上壊したくないというのは本音なようで、拳を下ろして構えを解いた。

「続きは外だ」

「って。やっぱりまだ暴れ足りないんじゃないですかー」

 そう言って、魔王が外へ向かって一歩踏み出した時だった。


 ブオォォォン‼


 不安を煽るような怪音と共に、漆黒の夜空に一つの六芒星が現れた。

「あ、あの陣は……!」

 六芒星ーー。よく見るとその円周には、装飾のように幾何学的な模様が描かれている。それは魔界では『魔法陣』と呼ばれているもので、いわゆる魔法が使われる時に描かれる模様なのだが……その大きさが異常だった。

 ーー魔王城より、遥かに大きい。半径だけでも優に百メートルはあろうかという巨大な魔法陣が、城の上空に展開されていたのだ。

「なんだインプ。お前、あの陣を知っているのか?」

 頭上の魔法陣を見上げて戦慄しているインプに違和感を感じた魔王は、思わず問いかける。普段あれだけ飄々とおちゃらけた態度を取っているインプがこの反応。流石の魔王も尋常ではないと思ったようだ。

「し、知ってるも何も! まずいですよこれは‼ か、かかかかなりヤバいです‼」

「とりあえず落ち着け。お前らしくないぞ。……要はアレだ。詳しくは知らんが、魔法ということなら術者を直接叩き潰して……」

「ま、待って下さい! あれだけの数いたらどいつが術者か突き止めてる間に詠唱が終わっちゃいます‼」

 再び戦場へと赴こうとする魔王の腕に必死にしがみつきながら、インプはそれにーー、と続ける。


「アレが放たれれば……魔王城ごと消し飛ばされちゃいます‼」


 これには流石の魔王もまずいと思ったらしく、何だと⁉ と叫び、急いで退避しようとーー

「ならば早急に術者を片付けなければーー‼」

「ちゃんとわたしの話聞いていました⁉」

 ーーしなかった。寧ろ余計に火が点いてしまったらしい魔王は、改めて突撃体制に入る。

「あー、もう‼ 言う事聞かない子供ですかあなたは! いいからこっちに来て下さい!」

「ぬう⁉ ま、待て! 俺が本気を出せばあの程度の数など一瞬でーーッ‼」

「その言葉を信頼して道連れオダブツだなんて嫌なんですよ!」

そんな魔王を無理矢理引きずって(小さな体の一体何処にそんな力が?)玉座の間内へと引き返すインプ。

「ここは素直に退却です! 逃げますよ‼」

「おい⁉ 城はーー」

「諦めて下さい‼ ーー瞬間転移(テレポート)ッ!」

 玉座の間中央まで辿り着いたインプが短い語句を唱えると、すかさず目の前に四メートル程の直径をした円形の魔法陣が現れた。

「とりゃー‼」

そして、淡い水色の光の柱を放ち始めたその円内に魔王をーー放り投げた。

「ぐわっ⁉ 何をすーー」

「飛びますよー‼」

 魔王に続いてインプが中へ飛び込んだ瞬間、二人の姿は光に包まれーー次の瞬間にはその姿を跡形も無く消し去っていた。


◆◇◆◇


「……おい」

「むにゃむにゃ……」

「おい。起きろインプ!」

「むにゃ…。うーん……、魔王さま……家来にして下さいだなんてそんにゃ……」

「……」

 魔王はそっとインプの両頬を掴んだ。そのまま両手を左右にーー

「いだだだだだだ⁉ ち、ちぎえうちぎえうううう‼」

「遅い。とっとと起きろ」

「い、いはい……。……もう! わたしのプリティなほっぺを引きちぎるつもりですか⁉ 一体何事です⁉」

「何事か……だと? お前が有無を言わさず飛ばしたんだろう。それはこちらのセリフだ」

 魔王の苛立たしそうな視線に、あ。と、ようやくインプは状況を理解した。

「あっちゃー……。大分遠い所まで来ちゃいましたねー」

 ふよふよと魔王の目線まで浮かび上がり、周囲を見回しながらインプは呟く。どうやら彼女らが辿り着いた先は元居た魔王城からはかなり遠い辺境の地だったらしい。周囲の草原には、魔王城辺りでは見かけない草木が生い茂っていた。

「ちっ……。あれほど俺は出来ると言ったのに、いちいち余計な事をしやがって……。で? ここは一体どこなんだ。一刻も早くあのクソ野郎共を叩きのめしてーー」

「知りません」

「……は?」

「ですから、わたしにも此処がどこだか分かりかねます。まあ、ランダム転移ですしねーっていはいいはいほっふぇはやめふぇくらはいほっふぇは」

「お前、俺を怒らせたいのか?」

 今度こそ本格的な殺意をちらつかせながら、魔王はインプの両頬を抓った。手中の少女は哀れにも、その小さな身体を悶えさせながら、ぎうぎう、と謎の言葉を連呼している。

「まあいい……。俺は今、お前のその神経を逆なでする能天気さよりも、俺に楯突いてきたクソ野郎共に心底イラついている。……一刻も早く戻るぞ」

 無造作にインプを投げ捨てた魔王は、こういう場合は空から確認するのが一番だろう、と呟いてーー三メートルほどジャンプした。

「いたたたた……。もー。もっと優しく扱ってください……って、わーすごいジャンプ力ですね魔王さま」

 素直な歓声を上げ、小さな手でぱちぱちと拍手をするインプに反して、着地した魔王は額に青筋を走らせていた。

「インプ……お前、この俺に何をした?」

 眉間に幾筋もの縦じわを刻みながらも努めて平静を装っている風な魔王の問いに、暫くハテナを頭上に浮かべていたインプは、ああ、と柏手(かしわで)を打った。

「すみません魔王さま。わたしの瞬間転移(テレポート)、実は少々特殊でして……。最初に陣内に入った対象者の魔力を使って、それに応じた距離を転移するというモノなんですよー。ああ。通りでこんな辺境の地に来たんですねってちょちょちょっグーは駄目ですグーは」

 もはや憤怒の化身と化した魔王の拳を、飛び回って躱しながらインプは叫ぶ。


「だ、大丈夫ですよー! 魔王さまには魔力吸収(デモン・ドレイン)という素敵特性があるじゃないですか!」

 

 






 



現在の魔王は基礎運動能力が人間より少し高いだけの貧弱悪魔と考えて下されば結構です←

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ