ショートストーリー 阪神淡路大震災を知らなかった男
阪神淡路大震災を知らなかった男
一九九五年一月十七日午前五時四十五分
東の空からゴーという不気味な大きな音が聴こえ
姫路に震度四・五度の地震が襲った
私は妻と共に布団の上に立ち上がり
そしてうずくまり地震の凄さに驚いた
会社に行くまでの間
テレビやラジオが淡路・阪神大震災を大々的に報じていた
私はその日いつものように七時に会社に行った
カー・ラジオからは地震の様子が次々に伝えられ
これは大変なことになるぞ
と思った
私が会社に着くと
先にきていた配達のNさんが会社にドロボーが入ったらしい
倉庫を見て下さいと倉庫に連れて行かれた
なるほど商品が棚から落ちて乱雑に床に散らかっていた
「Nさん地震があったこと知らないんですか」
「知らない」
私はNさんが余程鈍感なんだと思った
神戸の町がメチャクチャになっていることも知らない
Nさんは家を五時四十四分位に出て車で会社に向かっていたのだ
車に乗っていると地震なんて解らない
車の振動と思うだけだ
Nさんはあの大地震を知らなかったことを後悔していた
余程悔しかったのか
それからNさんは地震の本ばかり買ってきて
今度は何処の断層が動くとか
何処のプレートが動くといって私達を不安にさせて喜んでいるように見えたが
誰も本気にする者はなく知らん顔をしていたので少し可哀相だなと思った