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プロローグ
清々しい朝。
どこまでも澄み渡った空を、爛漫と咲き誇る桜の花びらが静かに湛え、春風が吹くと美しい旋律を奏でる、そんな季節。―――春。
そんな春の短い夜が明け、朝焼けが早朝の空を覆い尽くし、煌びやかに輝く、そんな時間。
だがそんな美しい光景とは相反し、人々の顔にはどこか絶望の色が滲んでいた。
―――次に太陽が沈んだ場合、世界が滅びる。
そんな妙な伝説が、現実味を持って人々の脳にこびり付いて離れない。
誰しもが感じている死への恐怖。そして、何もかもが無に還ってしまう空虚さ。
人々はその無への還元を恐れ、絶望しているのだ。
だがそれでも、唯一の可能性を秘めた少年がいる。
もしかしたら彼次第で、この恐怖を取り除けるかもしれない。もしかしたら彼の行動次第で、太陽が喰われずに済むかもしれない。
だが殆んど人々は、彼の存在を信じず、ある種の都市伝説のようなものだと思っていた。
それではお話しよう。
臨界を駆け抜け、視線を潜り抜け、そして数多の死者から美しい鎮魂歌を捧げられた、誇り高き少年の話を―――。