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ヒーロー扱い

「この度、殺人事件を起こしてしまいました!」

「どうすんのよ!馬鹿たれ」

私は、目の前の能無しを思い切り蹴り飛ばした。右足のつま先が彼の腹にめり込むのが伝わる。

彼、つまり高林はその場に倒れた。

「イテぇ‥‥」高林は大事なものに触れるような手つきで自分の胴体を擦っている。

思わず溜息をついた。

「ねえ、私はただ単にあのチンピラから金を巻き上げてくればいいと言ったはずよね」

「そうでしたっけ?」

「そうだったのよ!」

私は、また蹴るわよ と、威嚇する。さすがに高林も怯んだ。

「それなのに何でナイフで刺しちゃったの?一瞬で死んじゃったじゃない」

「人は誰だって一瞬で死にますよ」

「いい加減にしないとアンタを殺すわよ」

高林が車のドアの取っ手を掴んで、中から逃げ出そうとする。私はそれを彼の腕を掴んで勢至した。

「あなたが、直前にナイフを渡してきたもんだからきっと殺せって事かなと‥‥」

「あれは非常事態に陥ったら使いなさいって言ったじゃない。殺せなんて言ってない。何でそんなに人の話を聞かないの?」

「そうだったったんですね。すいませんでした」

「ナニソレ、信じらんない」もう、何の言葉も出なかった。

私は、高林という男とコンビを組んでからの日々を頭に浮かべる。

初対面は二カ月ほど前の事だった。

課長には数日前に入ってきた契約社員だと紹介された。

「コンビを組ませていただけて光栄です。宜しくお願い致します」

高林はすらっとした童顔の優等生という出で立ちだった。

私は、彼の凛々とした目を見て「まだ何も知らないんだな」と思った。

うちの会社は非合法な商売を得意としていた。主に、悪徳商法と呼ばれる手口の事案に精通している。

竹林が、それを知っていて入社したのかは定かではなかった(後に何者かに大金を盗まれ、本業のサラリーマンだけでは食っていけなくなったという事情を説明された)が、給料が多少他より高いだけであって、とても凛々としていられる仕事ではなかった。

私たちが最初に手掛けたのは非合法なドラッグの押し売りだった。

一人暮らしの若者の家へ押しかけ、そこで薬を法外な価格で売り裁く。

これが案外、儲かるのだ。

私たちは、玄関先で話を進める為、大半の人間が周りの目を気にして「帰ってくれ」と言い出す。

しかし、そこは粘り強く「買って頂けるまで帰りません」と応戦。

結局はこちらの意図通り、買わせることが出来るのだ。

中には嫌々買わされて、興味本位で使ってみたら、中毒でリピーターになったというお客もいる。

ばかばかしい話だ。

結局は怒鳴り散らしたこちらの勝ちなのだ。


だが、この簡単な仕事が高林にはできなかった。


いつも、お客の『帰ってくれ』の一言に怖気てしまい、何もできずに戻ってくる。

車の中で見守っている私を残念がらせてくれるのだ。

「君って弱いね~。弱小。ハプニング映画なら間違いなく序盤で死ぬタイプだね」

だから今日、私は営業車の中でこんな事を言ってやった。

すると珍しくぶすっとした顔で高林が返事をした。

「昔、高校生の頃、空き巣犯を捕まえた時にはみんなヒーロー扱いしてくれたのにな」

「よく捕まえられたわね」

「実家の近くに警察署があって。そこの掲示板に空き巣犯の似顔絵が描かれたポスターが貼られてたんです。で、それに似た男を見かけたので」

高林が照れくさそうに笑う。

「僕、ああいうのを眺めるのが好きなんです」

「てか、アンタなんかがヒーロー扱いされたいの?」私はそこに呆れた。

「されたいですよ」高林が遠くを見る目で言う。

「それなら少しでも契約件数を増やしなさい」

高林はため息をついた。

「別に、彼らは悪人ではないでしょ。空き巣犯とは違いますって。だからヒーローにはなれません」

「なら」

私は高林に目を向ける。

「そこにいるチンピラからお金巻き上げてきなよ。いかにも悪そうだし、彼も悪人でしょ。もし成功したら私がヒーロー扱いしてあげるから。ほら、行きなって」

目の前のコンビニには髪を赤色に染めた高校生ぐらいの男子が居た。おあつらえ向きだ。

ということで私は高林にいざという時のためのナイフを一本渡すと、外に出した。


それが間違いだったのは言うまでもない。


「でも、確かにあの時アンタは緊張してるっぽかったわよね、こっちが話しかけてもろくすっぽ返事しなかったし」

私はため息をついてから、高林を励ましてあげる。

「まあ、それのお陰で現場に指紋は残ってないでしょうし、今すぐ逃げれば何とかなるかもね」

私たちのやっていることはもとより犯罪である。警察が来る前にすぐさま立ち去りたかった。

「そうかもしれませんが」

高林は心配そうな表情だった。根が小心者なのだろう。

「死体はあのままで大丈夫でしょうか」

高林がコンビニの前に倒れたチンピラを指差す。一見すると刺し傷や血が目立たないため、昼寝中にも見えた。

「変にいじるよりいいでしょ。誰かが死んでるのに気付くまであのままにしときましょ」

「でも、通報した方が良いですよね」

「はぁ?」私は首をかしげる。

「なんでそんなことするのよ。私らが疑われたらどうするの?」

すると高林は、思わぬことを口にした。

「だって、彼は空き巣犯ですよ」


「えっ?」


「だからそのことを警察に早く伝えた方が良いかなと思って」

「ちょ、ちょっと待って」私は混乱していた。

「どういうことよ、それ」

「いや、最近ここら辺に出没している空き巣犯に彼の顔がそっくりなんです」

「何でそんなことが分かるの?」私はそこが気になった。

「だって僕、警察署の掲示板を見るのが好きだって言ったじゃないですか」


あっ‥‥


「そういうの見てると自然と犯人のイラストとか覚えちゃってるんですよね」

まじかよ。

「で、でもなんでそれを知ってて殺しちゃったの?」

「実は、僕の家ってここら辺にあるんです。それで、この前同じように空き巣に入られたんですよね」

そういえば、大金を盗まれたと話していた。あれはこのチンピラにだったのか。

「おかげで変な会社に入る羽目になりましたし、最悪でしたよ。けど、自らの手で復讐できましたし結果的に、万々歳です。それに」

高林がこちらに目を向ける。

「また、ヒーロー扱いしてもらえます」

初めての小説です

下手くそな文章ですが最後まで読んで頂けるとありがたいです

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― 新着の感想 ―
[一言] 殺人は犯罪ですね。高林はヒーロー扱いされませんよ。立派な悪人です!笑 最後の言葉に高林の超天然っぷり?が表れてるように思いました!笑
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