第二章
第二章
-力-
"女のくせに生意気に言い返しやがって……"
"お前は着飾った所で何も変わらないさ。 無駄な金を使うんじゃねぇ"
どんな時も男は彼女を"女"としては扱ってくれない。
唯一、初めて出会い恋に落ちた、あの瞬間だけを記憶に残して_。
*
(今日の夕飯、何にしようかしら)
街へと買い物に来ていた彼女は、自分のみすぼらしい色のない服と腕に出来ている新しい痣を隠すように深緑のローブを羽織っていた。それすらも裾が擦り切れ破れ、足元だけはどうやっても丈が足りない。彼女の疲れきった足取りは歩いているというより、足を引きずっているようだった。
野菜販売の出店の前で品定めをしていた時だ。
彼女の視界に一人佇んだ少女が見えた。少女はどこか一点を見つめ、少しも動くことなく只々そこにいた。少女の側には親と思われる人は見当たらず本当に一人でいるらしい。彼女は心配になり買い物を中断して少女に近づいたが、少女の顔を見た瞬間、身体に電気が流れたような感覚がしたかと思うと、気がつけば全身が鳥肌を立てていた。
彼女の目に映った少女の顔には、全く色を映さないような光を閉ざした虚ろな目が、瞬き一つせず見開かれていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
声をかけてみるが彼女の声に少女は反応を見せない。
(どうしたのかしら…。 私の声か届いてないみたいな…)
一体少女にどうしてやればいいのかわからなくなった彼女は、少女を連れて家で食事でも出してあげようと思い、「一緒に来るかい?」 と一言声をかけてみた。
すると突然少女が顔を上げ、彼女の顔を覗き込む。そして少女の放った言葉に彼女は息を詰めた。
「何故あなたは諦めたような顔をしているの ……。」
一瞬彼女は目の前の少女に自分の全てを見透かされているような錯覚に恐怖を感じ、耳を疑った。
少女はそのあと感情の見えない笑みを溢したかと思うと更に言葉を続けた。
「私にはこの周りの景色は真っ黒にしか映ってないの。 だけどあなただけが違って見えた。 それが何かは知らない。 だって私は色がわからないから。」
その言葉を受けた彼女は、身体がいきなり熱くなったかと思うと、今まで外に出す術もなかった感情が涙となって流れだし、そのまま声をあげて泣き始めた。
少女は静かに彼女から差し出されていた手に触れる。実際は少女の手は氷でも掴んでいるかのように冷たく熱を失っていたのだが、彼女には少女よ手が全てを包んでくれているように温かさを感じ、力を込めて握り続けていた。
*
今まで見てきた景色が全く違うものに見える。
少女はこの世界が真っ黒に見えていると言った。
でもその少女が彼女に色をつけた世界を見せたのだ。
街行く人々には足を止める者、振り向き目を見開く者、口々に言葉をこぼす者……
心奪われた人々の目線の先には、
陽の光に輝く彼女の姿が映っていた_。
-力-終




