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第四話     夕陽を浴びて

「学校でも誰かの悪口を言うじゃろう。その子がおらんうちにどんどん悪口がひろがる。それがほんとじゃなくてもホントのようになってしまう」

(えー、そんなことないよう)と早苗は思ったが、でも無くはないかなとも一瞬思ってしまった。

「うふふ、子供の世界ではときどきあることじゃ。だがな、大人の世界ではそういうことがわざと計画的にされることがしょっちゅうなんじゃよ」とおじいちゃんはやさしい笑顔で早苗の顔を見つめてきた。

「ふーん。それじゃー、角栄さんはそうされたのー」と早苗は聞いた。

「そうじゃなぁー。角栄さんもそれとは戦ったんじゃが、途中で病気になってな」とおじいちゃんは口をつぐんだ。

早苗はそんなおじいちゃんの顔を、一途にじっと見つめていた。

「だからな、早苗も一生懸命勉強しとるが、それを妬んで悪口を言われることもあるかもしれん。気をつけんとなぁ」と早苗の頭をなぜてくれた。

「うん、わかった」と早苗は元気にこたえた。

元気にこたえることによっておじいちゃんに安心してもらいたかった。

早苗は大丈夫だよっておじいちゃんに思ってもらいたかった。

おじいちゃんは案の定、そうかそうかと言って笑ってくれた。

早苗は「うん」ともう一度うなずいた。

おじいちゃんが喜んでくれたので早苗もうれしくなっていた。

(大丈夫!早苗は大丈夫だもん。みんなと仲良くするもん)と心の中でくりかえし思っていた。

5年生の運動会の時、早苗はリレーの選手に選ばれた。

そう5年生からはクラス対抗のリレーが運動会の呼び物の一つとしてプログラムされていた。

運動会の終わりの演目として5年生・6年生のリレーが慣例となっていた。当然それに選ばれることは栄誉なことだ。

男子の組と女子の組が交互にリレーしてバトンを渡しあう。

そのため選ばれたものは居残りをして練習をやらされる。

それがまた特別扱いのようで誇らしいものだった。

この頃ではこんな片田舎でも少子化の影響で、クラスの数もさほどではなく5クラス程度だった。

最盛期から見れば3分の1だ。この地域では、少子化というよりは過疎の問題がむしろ深刻と言える。

今回選ばれたのは、一クラス男女6人で30人だが学年全体で200余名ほどだから7人に1人の選抜となる。

なるほど選り抜きの選手と言えた。

早苗はその特別練習の間に、佐々木辰夫と仲良くなった。

辰夫とは5年生になって初めてクラスが一緒になった。

幼稚園も違ってたので、顔さえよく知らずにいた。

成績もよく運動も出来てたので、クラスの人気者の一人ではあった。

「早苗ちゃん」と声をかけてくれたのは辰夫からだった。

「途中まで一緒に帰ろう」と言ってくれた。

まだ9月の残暑の続く黄昏時だった。

二人してようやく黄色くなり始めた田んぼの土手の上を歩いた。

辰夫の家は刈羽村の方なので途中で土手を下りて行く。

その分かれ道まで二人はゆっくりと並んで歩いて帰っていた。

「早苗ちゃんは結構本読んどるん」

「うん」といつになくしおらしく早苗がうなづく。

5年生にもなるとランドセルは手提げのかばんに変わっている。

その手提げのかばんを前にして両手で持って歩いている。

白シャツに水色の袖なしのワンピース。

夏服姿だ。

少し伸ばしかけのお下げ髪がうつむき加減に揺れている。

辰夫も白シャツに黒の膝までのハーフパンツのような格好だ。

「赤毛のアン」が好きと早苗はつぶやいた。

「へぇー、そっか。僕は15少年漂流記が面白かった」とやはり手提げのかばんを片手で肩の方まで持ち上げて、背中にしょうようにしながら上を向いて辰夫は言った。

「あっそれ読んだ」と早苗は言った。

「へぇー、あれ読んだの。女の子にしてはめづらしいね」と驚いたように辰夫は早苗の方に顔を向けた。

「うん、面白かった。ジュールベルヌよね」

「そうだよ。さすがぁ。やっぱすごいね」って感心したように辰夫は言った。

「えーっ、そんなことないよぅ」と早苗も辰夫の顔を見上げた。

二人はそのままお互いの顔を見つめあいながら夢中でおしゃ

べりした。


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