第十話 自由な発想
「昔はな、人の暮らしの周りに豊かな自然があった。でも最近は周囲の自然をすべて開発してしまった。そのために行き場を失くした動物たちが、何かあるとすぐに人間の社会に紛れ込んでしまうんじゃ」
「自然を開発しすぎたからだね」
「うむ、人口が増えているときはしかたなかった面もある。だが昔の農村は自然を開発というより、人間が住みやすくするように自然を改良していただけじゃった」
「改良・・・」
「そう・・・。なぁ、早苗。この村にしても田んぼやあぜ道、ため池なんかに自然の物をうまく利用して開拓して出来上がってきた」
「ああそうかぁ、開発とはちょっと違うんだ」
「そう、そのことによって野生の生き物とうまく付き合っていた。確かに秋になると猿やいのししが畑の作物を荒らしに来るので手を焼いてはいたが、それもその時期になんとか連中を追っ払いさえすればそれでよかった」
「うん、大きな音を出せばいのししも逃げてたね」
「今、全国的にうちの村のような里山を見直して保護しようという運動が起きとるんじゃ」
「ふーん、それがその里山プロジェクトってこと」
「ああ、じゃがわしはもっと違うこと考えている」
「違うこと?なぁーにそれ」
睦夫は待ってましたとばかりに、得意げにしゃべり始めた。
「つまりじゃ。田舎の小さな村をただ保護するというより、むしろ大都市ほどその周囲に自然の森や川を再生させて里山のようにしていくという考えじゃ」
「へーえ、大都市。じゃぁ東京でも?」
「うむ、そうじゃ。東京クラスになると区ごとに畑や森を義務付けるんじゃ」
「ええ、そんなことできるの」
「できるとも。都市計画そのものを変えていくんじゃ」
「へぇー。本当?」
「ふふふ、これは凄いぞ。昔角栄さんが日本列島改造論ちゅうのを出したんじゃが、それはここいらみたいな田舎をみんな都会のようにしようっちゅう壮大な計画じゃったが、わしのは逆じゃ」
「えーっ、逆?」
「ふふふ、今度は大都会をみんな田舎のようにするっちゅうわけじゃ」
「わぁー、面白い。おじいちゃん凄いこと考えてるね。あはは」
早苗はなにか楽しくなってきた。
スケールの大きな話だ。
久々におじいちゃんとも話が出来て、小さい頃と同じような夢のある話に出会えた。
そのこと自体が早苗には懐かしく愉快な出来事だった。
それからしばらく日本のありようやら、国際情勢についておじいちゃんの持論を早苗は聞かされた。
内容はともかく、熱っぽく語るおじいちゃんの姿そのものがとてもうれしいことだった。
その夜、早苗は大満足して床につくことができた。
それからの早苗は地理とか歴史とかに興味が湧き、学校での勉強にも理科や社会のような教科に力が入った。
その影響か辰夫までもが日本の自然環境に関する知識が豊富になっていた。早苗はまるでおじいちゃんの話しっぷりそのままに、辰夫に話して聞かせた。
その都度、辰夫は感心しきりで「すごいなぁ、すごいなぁ」と連発していた。