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夏。仮想世界にて、瑕疵と  作者: 後手堀かおる
New Game; 催事会場にて、従姉と
5/10

004

 結論から言うと――ナツキの実力について結論から言うと、彼女にとっては的が動こうが動くまいが、大した差異は無さそうであった。


 森に入って数十秒後、最初の敵である小鬼(ゴブリン)が、五匹の集団で姿を現した。ナツキはまだ自分が気付かれていないことを知り、「ラッキー」と呟いて銃を構える。

 そして発砲音。

 隠密スキルも追加装備であるサイレンサーも付けていない為、敵に自分の位置をわざわざ知らせるような音だったので内心ヒヤヒヤしていたが、そんな心配は無かった。

 打ち出された銃弾は、寸分違わずゴブリンの頭――急所にヒットし、ハイド効果(敵に認識されていない状態の時に攻撃すると、通常の一・五倍のダメージを与えられる)でHPが五分の三ほど減少。こちらに気付いたゴブリンが振り返ったところへもう一発お見舞いして、最初の敵は呆気なく、光の粒子となって消え去ったのだ。

 因みにゴブリンは結構デフォルメされており、恐怖心は殆ど感じなかった。


「むっ! ナツキにだけ良い思いをさせるわけには行かぬっ!」

 そう言ってハナビは背負っていたハンマーを構え、残り四匹の殲滅に向かう。僕も後れを取るわけにはいかないので両手剣を抜き、ハナビに続いた。

 奇襲を遠距離武器のナツキが、殲滅を近距離武器のハナビと僕が担当する。それがどうやら、この二人が考える作戦らしかった。気付かれてしまった後は、ナツキは牽制および補助要因だ。


 ザシュッ、ザシュッ、とあまりリアリティーの無い効果音を聞いて、ああやっぱりこれはゲーム世界なんだなと実感しつつ、両手剣を振るう。

「おおっ。良いんじゃないかな? 初心者とは思えないよっ!」

 隣でハナビがゴブリンにハンマーを叩き付けながら、僕の動きを褒めてくれた。

 どうやら彼女は、7th Gate以外のVRRPGを既に経験しているらしい。経験豊富で的確なアドバイスは、身体にしっくりと馴染んだ。

「そうそう、そこでスキル【強撃】発動だよっ! モーションはさっき練習したとおりだからねっ」

「アイ、サー!」

 初期スキル中、唯一の武器攻撃スキルである【強撃】の起動モーション――両手剣を下から振り上げる動作を行い――そして振り下ろす。能動(アクティブ)スキルの動作補正(モーションアシスト)威力補正(ダメージアシスト)の二つを受け、僕の剣撃は猛烈な速度を持ってして、ゴブリンの脳天をかち割った。

 途端、残り三分の一ほどだったゴブリンのHPはガクン、と減少してゼロになり、光の粒子となって消える。

 どうやらそれが最後のゴブリンだったようだ。視界の隅にあるHPゲージの脇に表示されていた剣のアイコン(『戦闘中』を意味している)が、ゆっくりと消滅した。


「へー、割と大量に落としていくんじゃない」

 ナツキは、ゴブリン達のドロップを確認しながら言う。

 モンスターのドロップは、モンスターを倒したパーティーメンバー全員のアイテムボックスに追加される。パーティーメンバーが多いほど一人当たりが入手できるドロップは多少減るが、飽くまで『多少』のため、ソロで狩るのとそこまでの差は無いらしい。

 因みにモンスター達は、ゲーム内通貨(『D(ドーン)』という。効果音かよ)を直接落としていくことはないらしい。ドロップ品を売って、資金を集めるのだそうだ。


 その後も同じペースを崩さず、ゴブリン達の集団や、身長二メートルほどの大鬼(オーク)を、見つけては狩り、見つけては狩りを繰り返した。どうも『森』フィールドには、最弱モンスターとして名高い『スライム』達は、存在していないみたいである。

 そんなこんなを三十分ほど続けたところだろうか。ナツキがダンジョン内にライトグリーンの浮遊球(ナツキ曰く『回復地点』)を見つけ、休憩することとなった。


「これは良い機会ね」

 そんな事を言って、ナツキは立ち上がる。

「戦闘中、何度かレベルアップのファンファーレを聞いたのだけれど、途中から数え忘れていたの。今何レベか、確認しましょう」

 僕とハナビは頷くと、「Status」とつぶやき、各々のステータスウィンドウを開く。


「おおっ、もうレベル十だ! フリーターの時はレベルアップしやすいと聞いていたけれど、まさかここまでとはねっ!」

 ハナビが嬉しそうに声を上げる。

 僕とナツキも、同様の結果だった。


「フリーターだとレベル十以上に上げられない仕様になっているはずだから、そろそろ帰って転職しないとね」

 ナツキの提案に、二人で頷く。

「よし、みんな回復を終えたね? それじゃあ行こっか!」

 ハナビの一声に、僕とナツキは立ち上がると、

「おい、あそこにゴブリン居るぞ」

 ふと僕は、前方にゴブリンが居ることに気付いた。


「一匹……こちらに気付いていないわね。ちゃっちゃと片付けますかっ!」

 いつの間に構えていたのか、ナツキはライフルの銃口を、ゴブリンへと向けていた。

 発砲音が二回。


 ゴブリンは光の粒子となって、跡形もなく消滅した。


 そして――

「ゴブリンは なかまを よんだ」

 ハナビのおどけた声が、響いた。

 次の瞬間。

 ざわっざわっざわっ……と、前方の草むらが突然、不自然な揺れを始めた。


「うわっ……マジか」

 本当に仲間を呼びやがった。

 草むらから現れたのは、十匹ほどのゴブリン集団。

 しかもそれだけではない。

 前方だけでなく、右方、左方も既に、揺れ始めている。

 ――程なくして、僕達は周囲をゴブリン集団に囲まれてしまった。


『ガウガウ、ガウガウ』

 合成されたゴブリンの鳴き声が周囲の木を揺らす。

 二人の方を見るが、どちらも目の前の状況にポカンとしており、とても打開策など持っていそうにない。

 万事休す、だ。


「シュン、ハナビ、後ろよ!」

 突然、ナツキが声を張り上げる。

「後ろは層が薄い! アレなら逃げ切れるわ!」

 途端。 

 まるでタイミングを合わせたかのように、ゴブリン達が総勢で襲いかかってきた。


 ――真偽を確かめる暇なんて無い!

 そう判断し、その場で回れ右をして、僕は先頭を行くナツキの後を全速力で追いかけた。



 隠しステータスでもあるのか。

 ハナビ、僕、ナツキの三人は、殆ど同じタイミングでバテた。

 あの後、大体五分くらいは全力疾走が続いただろうか。HPゲージの横にあった剣のアイコンは、既に消えている。つまり、完全に振り切ることが出来た、と言うことだ。

 これで一安心である。

 全力疾走の疲労感を癒す為、僕達はひとまず座って休憩することにした。


「まさか、本当に仲間を呼ぶとは……」

 実際に呼んだのはゴブリンではなく、ナツキの銃声だったのだが。

「でもまあ、良い経験になったんじゃないか?」

「そうね。モブと言えど侮れないわ。取り敢えずの所、隠密スキルは必須かしら。」

「ナツキちゃんは、【盗賊(シーフ)】の暗殺者(アサシン)型育成でハイドメインなんでしょ? だったら遠からず、隠密スキルは必要になるねー」

 ん? 突然ついて行けなくなったぞ?

「うーん……攻略サイト見たところだと、忍者型でもいい気がしてるのよね……銃って武器の特性上、少なくとも純盗賊型は諦めているのだけれど。でも足軽型は、まだ選択肢に残ってるのよ」

 お、蝶が飛んでいる。再現度高いなあ。

「だとしたら忍者型が良いんじゃないかな? ナツキちゃんのその腕に、足軽型はもったいないよ! それに忍者型なら、前衛(フォワード)消えても生存確立高いし。暗殺者型に比べて隠密を少し犠牲にすることになるけど、その分は腕でカバーできるはずだよ」

 ん? 何だろ。今一瞬だけ、人間の腕みたいなモノが見えた気がする。モンスター?

 いや、違うぞ……アレ、肌色だ。プレイヤーなんじゃないか……?

「そうよね……じゃ、忍者型育成やってみますよ」


 がさっと。

 いや、どさっと。

 重量感のある音と共に、地面が小さく揺れる、。

「ねえ今、何か音が鳴らなかった?」

 ナツキが言って、ハナビが周囲を見回す。

 そして――彼女は凍り付いた。

 その様子を見て、背筋に氷水を流されたような、いやーな予感がした。

 知らぬ間にかちこちに固まってしまった首を、ゆっくりと音の鳴った方へ、ハナビが見ている方へ、向ける。


「……あ、あれ……」

 そこにいたのは――

「……オーク……」

 金色の――

「プレミアム・オーク……!」

 巨鬼、だった。


『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!』

 憎悪の鬼の咆吼が、聴覚を支配した。

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