表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょっと臭うかもしれないけど、嫌いにならないでね。  作者: しがわか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

2日目

 2日目――。


 日が高くなった頃、リネッタが起きたのですぐに出発することにした。

 歩きながら夜のうちに把握した自分の状態を再確認する。

 その上で確信したのは、俺は無職ではなかったということだ。

 なぜ大神官が嘘をついたのかは分からないけど、リネッタに冒険を諦めさせるためだったのかもしれない。

 だとしたらあまりにも酷いじゃないか……くそっ。


「ん、今なんかいった?」

「ううん、なんでもないよ」

「それより昨日はちゃんと寝たの? 私に気を使って起こさなかったでしょ」

 

 ちゃんと寝た……か。

 俺はもう寝る必要がないみたいなんだよな。

 それどころか痛みもないし、空腹だって感じやしない。

 でもわざわざリネッタに心配をさせる必要もないから「気付いたら俺も寝ちゃってさ」と嘘をついた。

 優しい嘘ならいくらついたっていいんだって煙屋のパブロ爺がいってたし。


「それならいいけど……二人とも寝ちゃったなんて危なかったね」

「うん、そうだね。今夜は気を付けるよ」


 それにしても昨日と比べてどんどんと道が険しくなってきているのを感じる。

 横を歩くリネッタもかなり苦しそうな顔をしていて、息が荒くなってきた。


「あそこの水場で休憩しよっか」

「うん、そうしよ」


 山から流れる川は、陽の光でキラキラと輝いていた。

 以前の俺ならその美しさに感動していたかもしれない。

 でも今はそんなのどうでもよくなっていて。

 この(からだ)になって感情が薄くなってきているのを感じる。

 

「綺麗な水だね、飲んでも大丈夫かな?」

「流れもあるし平気だとおもうよ」


 そう答えると、川へ向かうリネッタを見送ってから左手の布をそっと取った。


「……よくないな」


 布からぐずぐずになった肉が見え、思わずそう呟いてしまった。

 すでに腐りはじめて変な色になっている左手を水筒の水で流しておく。

 大した意味はないと分かっているけど、それでも少しは……。


「何してたの?」


 左手の布を巻き直した直後、後ろから声がかかった。


「傷口を洗ってたんだ。膿んだら大変だからね」

「だから治癒魔法をかけるっていったのに……ほら見せてごらん!」


 リネッタが心配そうな顔をして、不意に左手を掴んできた。

 

「大丈夫だって、本当に!」


 俺は柔らかいその手を思わず振り払ってしまった。

 まずいと思った時にはもう遅く、リネッタは悲しそうな顔をして「そっか」とだけ呟き離れていく。

 悲しませるつもりはなかった、でも今の状態を見られるわけにはいかない。

 俺は俺として、彼女を最期まで見送らなくちゃいけないんだから。


「じゃ、そろそろ行こうか」

「……」


 リネッタは返事をせず、軽く頷いて着いてくる。

 水場を出発してしばらくは会話もなく、気まずい雰囲気が流れていた。


「リネッタ、さっきはごめ……」


 意を決して謝ろうとしたその時、山道脇の藪がガサリと音を立てる。


「危ないっ!」


 咄嗟にリネッタを突き飛ばすと、尻餅をついたリネッタと俺の腕の間で鋭い牙がガチリと音を立てる。

 危なかった……どうやらフォレストウルフが飛び出してきたらしい。


「下がってて」


 リネッタに短く指示を出すと、俺は狼と対峙する。

 しかし剣を抜こうとしたところで、腕が反対に曲がっていることに気がついた。

 どうやらリネッタを突き飛ばしたことで元々折れていた骨がズレたらしい。


「やっぱ無理に形を整えるだけじゃだめだったか……」


 そんなことを考えながら、曲がった腕を捻じるように回して強引に剣を抜く。

 これは痛みがないからこそできる芸当だろう。

 灰色がかった大きな狼も俺の異常性を感じ取ったのか、鼻の頭を盛んに舐めている。


「かかって来いよ」


 以前の俺なら自分の体格以上の狼を前にしたらまさに狼狽(うろた)えていただろう。

 しかし今は恐怖という感情が湧いてこない。

 だから足が竦まないし、冷静に最適な行動をとれるってわけだ。


「グルルルアァァッ!」

 

 狼はしびれを切らしたか、激しく鳴いて突進をしてくる。

 俺も負けじと前へ大きく踏み込んで剣を横一閃に振り抜くが、狼はヒラリとそれをかわした。

 そして着地と同時に俺の右足へ鋭い牙を突き立てる。

 バキバキと骨が嫌な音を鳴らすが、なんの痛痒も感じない。


「そんなもんでいいならくれてやるよ」

 

 俺は夢中で足の骨をしゃぶっている狼の、その無防備な首筋に剣を突き立てた。

 狼の瞳から光が消えるとすぐに足から牙を引き抜き、噛み砕かれた足を両手で挟み込んで真っ直ぐに伸ばす。

 ちょっと踏ん張りが効きづらいけど仕方ないか。


「ネロッ! 大丈夫!?」


 戦闘が終わったのを見て、リネッタが駆け寄ってきた。


「うん、狼くらい余裕だって」

「え、でも足をガブッて噛まれてなかった?」

「ああ、あんなの甘噛だよ。全然問題ないから。ほらっ」


 俺はその場で軽くジャンプして無傷をアピールする。


「そう……でも怪我をしていたらすぐいうんだよ? もしかしたらまだ私の治癒魔法を信用できないのかもしれないけど……」

「そんなことないって、幼馴染のことを信用できないわけないだろ」


 リネッタはどうも俺がやせ我慢をしていると思っているようだ。

 ただ()()()()()から頼まないだけなんだけど。


「さ、この辺はあいつらの縄張りかもしれないからもう少し先まで進んでおこう」

「…………うん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ