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ちょっと臭うかもしれないけど、嫌いにならないでね。  作者: しがわか


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0日目

 0日目――。


「この街から先は私とネロの二人旅ってことでいいのよね?」

「ええ……そういうお約束ですからな。ただ今日はもう遅いので明朝出発するとよろしいでしょう」


 聖女が住まう天宮に一番近いドンカルナの街までは馬車で二十日くらいだった。

 確かにこの道のりを二人だけで旅していたら色々な危険があったかもしれない。

 盗賊や、魔物と遭遇したことも何度かあったから。

 その度に随伴してくれている教会騎士が全てを討伐してくれたけど、僕だけだったらああはいかなかっただろう。

 教会騎士の格好良さに見惚れていたら声をかけてもらえて、野営の度に騎士団長のマルクさんから剣を教えてもらえたのはラッキーだった。

 

「よし、最後の訓練もここまでだ。ネロくんは無職だが、これまでの鍛錬がちゃんと身に付いている。ここからの道のりは私に変わって聖女様を守ってくれると信じているぞ」

「はい、任せてください!」


 立派な意匠の入った鎧をまとうマルクさんは、その胸に手を当てて騎士の礼をとってくれた。

 なんだか騎士の魂を託してくれたような気がして、心が震える。

 結局最後まで良い一撃は入れられなかったけど、確かに成長している実感はあった。


「そうだ、ネロくんだけに見せたいものがあるんだ。ちょっとついてきてくれるか?」

「分かりました」


 何を見せたいのだろう、そう考えながらマルクさんの後についていく。

 するとマルクさんは街を出て街道を逸れ、森の中に入っていった。


「ええっと……どこへ向かっているんですか? あまり遠くまで行くと……」

「大丈夫、すぐ着くからね」


 マルクさんは振り返って笑顔でそういったけど、その目は笑っていないように見えた。

 それからなんとなく口数が減って、無言でその背中を追うとやがて周囲が開けた場所に出る。

 どうやら先は崖になっていて、行き止まりになっているようだ。

 見せたかったものというのはこの景色だろうか。


「どうだい、ちょうど夕焼けが見えて綺麗だろ?」

「ええと、これを見せたかったんですか?」

「いいや、まさか」


 マルクさんは僕と入れ替わるように立ち位置を変えると、笑いながら腰元の剣に手をかけた。

 そして音もなく抜かれた細身の騎士剣をまっすぐ僕に突きつけてくる。


「はぁ、処分対象と話さなきゃいけないのは苦痛でしかなかったぞ。口が汚れてしまう」

「は……え?」

「雑魚が剣を習って喜ぶ姿……滑稽だったぞ? だって処分される奴が剣を覚えてどうするんだって話だろう。みんなああはなりたくないって笑ってたよ。ははっ」


 顔を歪めて笑うマルクさんは、さっきまでの堂々とした騎士団長の姿とどうしても重ならない。

 

「でも、筋がいいって……褒めてくれて」

「世辞もしらんのか、まったく田舎もはこれだから……。さあ、どうする? 私に斬られて死ぬか、自分から飛び降りるか……選んでいいぞ?」

「諦めたのに……」

「ん?」

「僕は……リネッタを、夢を諦めたのにっ! 今度は生きることすら諦めろっていうのかよ!?」

「そうだ。聖女様にもお前を諦めさせなければいけない。お前に生きてられて、縋られちゃ困るんだ。聖女というのはただ世界のために祈ってればいいんだからな。さあ、さっさと死に方を決めろ」


 ジリジリと迫ってくる切っ先に押されるように、僕の足は崖へと向かっていく。

 これ以上後ろに下がったら崖から落ちてしまう。

 みすみす殺されるくらいなら戦うか?

 僕は自分の剣に手をかける。


「お、やるのか?」

「ただで殺されてやるもんか!」

「そうか」

 

 心底つまらなそうに一言呟いた騎士団長は、何気ない動作で僕に近づいてくる。

 あまりにも自然体で歩いてくるから敵対反応すらできなくて。

 

「え……?」


 次の瞬間、僕は思い切り崖の向こうへと蹴飛ばされた。

 

「やはり無職の血が剣につくのは勘弁だからな。はははっ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 立ち向かうために蛮勇を奮い立たせても、空に投げ出されてしまえばなすすべもなくて。

 僕は長いような、それでいて一瞬のような浮遊感を味わうことになった。

 

 自分の体が地面に叩きつけられた衝撃を感じたけど、なぜか痛みはない。

 腕も、足も、首も一瞬であっちこっちに曲がっちゃったみたいだ。


 憎い、憎い、憎い、憎いッ!

 だけどそれ以上に悔しかった。

 なんで僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ。

 こんな終わり方なんて……リネッタとたった一度の冒険すらできなかったなんてさ。


 体も心もぐちゃぐちゃになってしまった僕を、暗い森の高い木に止まった鳥が囀ることもせずじっと見下ろしていた。

 そっか、事切れた僕を食べるつもりか。

 もういいよ、勝手にしてくれ。


 あぁ"僕"が消えていく……。

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