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98.ツカサさんと謎の虫

 幽霊への称賛は、福利厚生の一つでもある。

 ただ心からの賛辞であるのも間違いなかった。


 ツカサが聞こえてないと分かっていながらも手放しで幽霊をほめる。


「凄いよ! 幽霊君今の格好良かった!」


「ツカサさんが幽霊君凄い、格好良かったって言ってますよ」


 聞こえていない言葉をエモトが通訳すると、幽霊の顔がにんまりと満足げに笑みを形作る。


「ふっふふふふ、もっと褒めてもいいですよ?」


「幽霊君はもっと褒めてもいいですよと言ってます」


 スマホを出すのが面倒だったのかエモトがそのまま伝える。

 褒めろと言うのなら誉めてやろうと、ユカリ、シオリ、ツカサの順に幽霊をほめる。


「凄いよ幽霊君」


「器用なんですね、驚きました」


「流石幽霊君だよねえ」


「ツカサさんは流石幽霊君だと言ってます」


 たくさんの褒め言葉に幽霊の顔が光るような満面の笑みに。

 実際薄っすら燐光が幽霊から漏れ出るようにあたりをただよっている。

 ミヤコにはそれがはっきりと見えていた。

 満足して光を放つと言うのは、何か意味があるのだろうか。


「ふふっふふー、あざーっす」


 幽霊は浮かれた気分のままにフラフラと左右に揺れる。その楽しそうな様子に、ちょっとツカサとユカリは呆れている。


「すごく楽しそう」


「楽しそうだねえ。幽霊君これ見せてね」


 幽霊が満足ならそれでいいかと、二人は捕まえた蛍火入りの瓶を幽霊の手から取り上げた。


「あ、はい、どうぞどうぞ。それ何か虫っぽいですよ」


 捕まえた幽霊には、その瓶の中身が何なのかしっかりと見えていた。

 ツカサたちが瓶の中を覗くと、蛍火の正体は瓶に張り付き威嚇をするように小さな顎を開いて見せた。


 顔立ちはトンボの幼虫であるヤゴに似ているが、黒い小さな丸い目をしており、身体には二対四枚の透けた羽が生えている。

 どことなくカゲロウに似た見た目で、しかし昆虫とは違い八本足で、さらに尾には長い尻尾のような突起が二本。

 サイズは三センチ程。体色は黄褐色。に赤い斑点が付いている。

 妙に長く、膨れた腹はうすら赤く光っており、瓶越しなのにキイキイとガラスをひっかくような音が聞こえてくる。


 蛍火の正体である虫は、未だシオリにご執心であるのか、身体ごとシオリの方をむいていた。


 シオリは少し距離を取った。


「燃えてはいないけど完全には消えないね。でもちゃんと虫だ。蛍じゃないけど」


 完全に密封している。燃焼しているならすぐにこの瓶の中の酸素は尽きているはずだが、蛍火の正体である虫は、窒息の気配を見せない。

 少なくともこの世界の昆虫ではないし、そもそも虫であるかも怪しいようだ。


 だがこの蛍火の正体が火を使うのは確かなのだ。

 そうでなければ身に着けている者を一度だけ必ず守る魔法の道具である「造像のお守り花」が燃え尽きているはずも無かった。


 矯めつ眇めつ瓶の中身を見ていたツカサだったが、分からないなと首を横に振った。

 ちらりとシオリを窺う。


「うーん、これは……専門家に聞こう」


 これは自分たちだけじゃわからないねと、ツカサはにっこり作り笑いを浮かべる。

 ツカサは笑顔のままエモトが持っていたバッグに瓶をしまい込み、そのバッグを肩にかける。


「サトルさんですか?」


 問うシオリにツカサは違うよと首を振る。


「いやそうじゃなくて。うん、でもサトルにもこの虫の画像送って調べてもらおうかな」


 しかし蛍火が想像していたものより危険なモノであった可能性に気が付けたのは、間違いなくサトルからの情報があったから。

 ならばサトルにも問い合わせておくのもいいだろうと、ツカサは思い直す。


「何か分かったら教えてくださいね。自分が襲われたのが何か知りたいし。あと、最初からサトルさんに話を聞いておけば、もっと情報が集まったのでは? あの人の情報の集積はちょっと変態的なくらいだし」


 シオリは自分がまきこまれた被害者なのだから、知る権利はあるはずだと主張し、それに対してツカサもおおむね同意する。

 しかし少し悲し気に顔を伏せ、本当は嫌なんだけどとこぼす。


「そうだね、巻き込んでしまったからにはちゃんと報告はするよ。ごめんねシオリさん……今回は本当に僕らの情報収集が甘すぎた。甘えていたと言っていもいいくらい……こっちのことだし煩わせたくなかったんだよね……」


 誰をと言わずとも、ツカサが誰の事を考えているのかわかったシオリは、呆れたようにため息を吐いた。


 もう一度ごめんねと繰り返して、ツカサは歩き出した。


「とりあえず、車を置いてきたところまで戻ろうか」


 近隣のコインパーキングに停めてある車の所へ戻ると、エモトは一人赤い軽自動車の所へ。


「それじゃあお疲れ様でした。私は直帰しますんで」


「今日はありがとうございました。気を付けて帰ってね」


「エモトさんお疲れ様。今回のお仕事危険手当が出るようにしておくね」


 予定には無かった捕獲作戦は、危険な仕事だったからとユカリは言う。


「ありがとうございます。お二人も、ミヤコ君もシオリさんも、お疲れ様です」


 エモトに笑顔を向けられ、シオリとミヤコも挨拶をする。


「お疲れ様です」


「……おつかれさまです」


 お疲れ様ですと言い合い、エモトは一人帰って行った。どうやら幽霊はここに残される羅しい。


 エモトの車が去って行くのを見守って、ユカリが口を開く。


「じゃあ私たちは、シオリさん家に送って、ミヤコ君家に送って、でもって、また会社だ!」


 ユカリの宣言に、ツカサはそうだねえと肩を落とす。

 しおれるツカサの肩を叩き、ユカリはやけくそに宣言をする。


「徹夜だね!」


「やっぱりブラック企業なんじゃ……」


 呆れたように呟くシオリに、ツカサは綺麗な作り笑いだけを返した。

蛍火の正体の虫は、ちょっとヘビトンボっぽいです。

ヘビトンボはレアな虫です。熊本だと高森町とかで見られます。というか、捕獲しました。

高森町いいですよ。ミヤマアカネとかチョウトンボとかもいるんで。

何かねえ……私高森町でのトンボ遭遇率高いんですよ。何でだ?

あ、江津湖もレアトンボの宝庫です。イトトンボとか素手でほいほい捕まえられるくらい大量にいますよ。何だったらアカネよりも捕まえやすいです。

ギンヤンマとかオニヤンマもいるので、秋の行楽としてトンボ観察にぜひ江津湖!


本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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