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97.捕獲

 金具だけとなった髪飾りを外し、呆然とするシオリ。

 そんなシオリをツカサが抱き起し抱え上げる。


 シオリは女子中学生の中でも発育の良い方で、身長は百五十八にとどいている。身長が成人男性の平均よりも低いツカサとは十センチも差が無い。

 だと言うのに、ツカサは軽々とシオリを抱えていた。


 ミヤコは何も言えずにその光景を見ていた。


「怪我は?」


「大丈夫、火傷もかすり傷もありません。そもそも私の怪我は自然に治癒します」


 きっぱりと問題無いと言い切るシオリだったが、ツカサの肩を掴む手は震えていた。

 ツカサは左手だけでシオリを支えるように右手を離す。よく見えれば黒い紐のような物がツカサの左手を這い、シオリの身体にも巻き付いているので、異能で筋力を補助しているのだと分かった。


 シオリを抱えながらツカサは右手を油断なく構え、アスファルトで舗装された路上に落ちた、元蛍火を見やる。

 人一人を包み込み大きく燃え盛っていた炎は、すっかり拳サイズに減じているうえ、すぐには飛び上がってこない。


 それでもツカサはシオリを抱えたままじりじりと後ずさる。

 蛍火は意志を持ってシオリを狙っていたのが分かっていた。


「思ったより厄介かも……よりによってシオリさん狙うとか」


 ツカサはシオリが再び蛍火に襲われないよう、蛍火を牽制しているが、蛍火はシオリを抱えたツカサが一定距離離れたとたん、再び跳ねる様に飛び上がった。


「また! 単調なくせに素早いとか迷惑!」


 行動が読みやすくはあるが、この機動力は問題だと、ツカサは悪態を吐きながら自分の前面から頭上にかけて三メートルほど黒い靄を展開する。

 もし回り込まれても対処できるように、背後へと振り返るツカサ。

 やはり蛍火はツカサの靄を迂回してツカサたちの目の前に跳ねる様に飛んで来た。


「えーい!」


 ミヤコにだけ聞こえた気の抜ける叫び声共にシオリを目指して飛び込んできた拳大の蛍火の上に、ガラスの瓶が被せられる。

 ポルターガイストを使い、蛍火に瓶を被せたのは幽霊だった。


「幽霊君!」


 まさかそんな動きをするとは思わなかったが、とっさにツカサも幽霊の補助に入る。

 蛍火が横に飛んで逃げないように黒い靄を瓶の口に合わせて広げ、蛍火を囲い込む。

 そのままアスファルトに強く打ち付けられそうになっていたが、ツカサは地面に黒い靄を広げてクッションにした。


 ゴツ、と鈍い音がしたが、幸いにも瓶は割れなかったようだ。


 ツカサが靄を使って瓶を持ち上げる。

 幽霊は自分が動かしているわけでもないのに持ち上がった驚いたが、すぐにツカサの力だと納得したのか、きょろきょろと自分にだけは目視できないはずのツカサを探すような動作をした。


「エモトさん、幽霊君に蓋を閉めるように言って。僕の異能ごとで大丈夫だから」


 遅れて階段を上って来たエモトに指示を出すツカサ。


「はい。幽霊君瓶の蓋を閉めて。捕獲します」


 蓋は遊歩道に置いてきていたらしく、エモトが幽霊に向かって蓋を投げ寄越した。

 幽霊はポルターガイストで手を使わずそれを受け取ると、ツカサの黒い靄を気にせずそのままふたを閉めた。


「捕まえました!」


 蓋のしまった瓶を掲げる幽霊。

 その瓶の中には、すっかり蛍ほどのサイズに戻った蛍火が入っていた。


「でかした幽霊君!」


 聞こえないと分かっていても、ツカサは大きな声で幽霊を賞賛した。

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