95.追う者が追われる者
そもそも想定していたのは妖怪や異界の生物であり妖精では無かった。
過去数百年分の類似した記録を集めていた。
その記録を見るに火としての性質がある可能性は分かっていた。
妖怪である可能性も少なからずあったが、だとすれば精神性の高い巫女であるエモトとエモトの守護をしている幽霊がいれば問題はないと思っていた。
しかし妖精である可能性は一つも見つけられていなかった。
ツカサは何度目かのため息を吐く。
「昔から目撃例が多いし、それほど問題では無いと思ってたんだけどね」
言うやツカサはミヤコの手を掴み歩き出した。向かうは川べりの遊歩道へと降りるのに使った階段。
ツカサはいったんこの場を離れるべきだと判断した。
「行こう、情報足りてないなら下手に触らない方がいい」
ツカサに促され、シオリたちもその後ろに続く。
上下左右に跳ねていた蛍火が、僅かに動きを止めた。
ツカサたちが蛍火から距離を取り出すと、蛍火はその後ろを追うように一定の距離を空けて付いて来る。
ツカサは振り返りそれを確かめると、舌打ちを一つしてミヤコとシオリの手を掴んで階段の方へと押しやった。
「なんかさっきと動きが違う……」
エモトが呟く。
そうだねと頷き、ツカサは右の手を掲げた。
「逃がしてくれないみたい。よしミヤコ君とシオリさんは退避! とりあえず上の歩道に行ってて。これから僕らはあの仮称蛍火に対処できるかやってみるから」
ツカサの右手から投網のように広がる黒い何か。それが蛍火に向かって広がり、覆いかぶさるように伸びた。
蛍火はふわと深く沈み込みツカサから距離を取ると、黒いと網から逃れ、再び上昇し上から回り込むようにツカサの方へと飛び込んできた。
ツカサはそれが分かっていたかのように投網上の黒い靄を消しもう一度自分の右手から黒い靄を広げて蛍火に向けて放つ。
二度のツカサからの攻撃に、蛍火はツカサを迂回するように川の皆もすれすれへと降りた。
蛍火は水の中に入ることはなかったが、遊歩道のある川べりの対岸には、生えるがままになっている背の高い夏草。その草陰へと身を隠すように滑り込む蛍火。
その蛍火の行動を見て、ユカリが叫ぶ。
「うわ、意志とか思考とかある動きしてる! こっちがどういう行動取るか窺ってから行動とか、明らかに知性がある!」
ただの虫であるわけは無いと思っていたが、想像以上に厄介かもしれない。
とにかくミヤコとシオリは逃がさなくてはと、蛍火にはツカサが前面に出て対処する。
ミヤコは先にシオリに階段を上らせる。
シオリも自分では足手まといになるばかりだと分かっているので、振り向かず無駄口を叩かずに階段を上った。
蛍火は本当に火かどうかは分からない。火でなかったとしてもごく小さな存在だ。一匹で何かを成せるとも思えない。
だと言うのに、ツカサたちは蛍火への警戒を高めていく。
「エモトさん幽霊君に指示。とありあえず物理的に捕まえてみようか。金属の蓋でお願い。瓶、密封しちゃおう」
ツカサの指示にすぐにエモトは反応する。
「わ、分かりました。幽霊君金属の蓋の瓶で蛍火捕獲、からの密封でお願い! 草むらに隠れてるから、飛び上がってくるのを待って」
幽霊はすぐにエモトの指示に従い、エモトが掲げた金属の蓋の瓶を受け取る。
密閉されたら蛍火は消えてしまうかもしれない。しかしツカサはそれよりも、もしかしたら厄ネタかもしれない蛍火への警戒を解くつもりはなかった。
「うん、まあ、死んだら死んだで、死骸を調べるからいいよね」
その内イラスト付けられたらいいなあと思いつつ、付けるイラストは馬とか熊とかスイカとかになりそうです。
本日の更新はここまで。
明日以降も一日一回以上の更新を目指します。