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94.スナップドラゴンフライ

タイトルのスナップドラゴンフライは、不思議の国のアリスに出てくる虫。

スナップドラゴン、というイギリスのヤバい遊びと、ドラゴンフライ(トンボのこと)を足して作られた造語。

作中のスナップドラゴンフライは、そのお話を元に名前を付けられた不特定多数のヤバい何か。

ヤバい何か。

 それに応えたのは幽霊だった。

 パソコンは片づけてしまったので、代わりにエモトの使っていたスマホのメモ帳に文字を打ち込んで幽霊は答える。


「蛍はどうかは知らないですけど、あれならできそうですよ。ポルターガイストっていうのかな? 頑張れば俺物振り回せるんで!」


 やる気満々な幽霊に、任せてみるのもいいのかもしれないと、ツカサは頷く。


「ああそうか、幽霊君なら川の上も大丈夫だね。よし、そう、じゃあこの瓶使って」


 幽霊にはツカサの声は聞こえないので、代わりにエモトが幽霊に指示を出す。


「幽霊君、この瓶使って、あの蛍火を捕まえて。蓋はすぐ締められるって点ではコルクなんだけど、火だと考えたらこっちの金属の方がいいかな?」


 幽霊はコルク栓の瓶の方を受け取ると、さっそくコルク栓を開けて振ってみる。


「わあ、思ったよりでかい。でもこれなら虫入り易そうっすね、あざっす」


 振ってすぐに栓を閉めるという動作を繰り返し、動きに慣らし捕獲の成功率を上げようとする。


「でも密閉したら……消えないですか?」


 火が消えてしまったら、せっかく捕まえた意味が無いのではないか、そうミヤコは言うが、ツカサはミヤコに見えるほどそれは火には似ていないと言う。


「本当に火その物かは怪しいんじゃないかな? 僕らには火よりも明滅する蛍の光に見える。匂いも焦げ臭いと感じていない。何よりミヤコ君は異界の気配だと言ってるし……ねえ、見え方とか匂いとか、あと音があるならちょっと列挙して」


 改めてミヤコにはどう見えているのか、ツカサは情報を求める。

 ミヤコは請われるままに目の前の蛍火へと五感を集中させる。


「見え方と匂いはほぼほぼ火です。それも蝋燭の。でも、そう言えば、距離もあるんでここからだと温度とか燃えるような音はしないです。蝋燭だって燃える時は音がするから。あれは……なんか音は虫っぽい」


 ミヤコの記憶にある蝋燭の燃える音は、学校で理科の実験で聞いた物だった。同じとは言わないが、それに類する音がしないかと耳を澄ませても、蛍火からは羽虫のような羽音しかしない。

 むしろ聞こうとすればするほど、明確に羽音が聞こえて来た。


「虫……燃える虫って、何かで見たような……」


 虫っぽい音と聞いてツカサは自分のスマホを取り出す。

 何かを調べる様子でしばらくスマホ画面を触っていたかと思ったら、大きなため息を吐いた。


「ビンゴ、前にサトルから貰った資料に似たようなのあった」


 ツカサはそれをユカリにだけ見せる。

 社外秘だからねーと軽く言っているが、その資料を見たユカリの顔は嫌悪の表情だ。

 一体何が書かれてあったのかわからないが、口元を押さえヤバいねとユカリは呟く。


 ツカサは自分たちに注がれるミヤコたちの視線に応えるように苦笑し、軽く説明をする。


「火の付いた羽虫で思い出したんだよ。スナップドラゴンフライっていう妖精というか怪異? が存在するんだけどさ……それに類似してるなあって。過去にも妖精、って呼ばれる類の異界の生物の侵入が記録に残ってるんだけどね……妖精って欧州での目撃例が多くて、大半が厄ネタなんだよねえ……」


 説明しながらもだんだんと言葉の切れが悪くなり、最終的にもっと早くに気が付くべきだったとツカサはため息を吐く。

 ユカリもツカサの横で難しい顔をしているので、思ったよりも重大なことが分かったのかもしれない。


「いやあ、蛍だからそっちの方で考えてたんだよ。蛍って幽霊君の同類の事が多いし、だったら幽霊君で対処できるかなって。でももしこれが幽霊じゃなくて妖精の類だったら、多分もっと厳密な方法でなければ取り扱いは危険なんだ」


 幽霊も妖精もミヤコからすれば本の中にしかなかった、超常的な存在で、そこに大きな違いがあるようには思えなかった。

 しかしツカサもユカリも、そして話を聞いただけのエモトですら表情が暗い。


「妖精だと、捕まえるの難しいんですか?」


 シオリが問う。

 ミヤコからすれば博識なシオリだったが、それでも妖精についてまで詳しいと言う事ではないらしい。


 シオリの問いにツカサが答える。


「ああ、うん、多分難しいと思う。どういう妖精なのか同定できないと対処法が明確には分からないんだ。もし妖精なら間違った対処をすると、その対処をした人間の精神が狂ったりすることもある。呪いのような現象で死んでしまったりという記録も……ただの異界の生物とも違し。うーん、実はさ妖精は異界の流入で現れる存在なんだよ。幽霊はこの世界の物異界のものもどっちもいるけどね。で、人の意志でどうこうできるのが幽霊で、人の意志が介在しないまま厄災になり得るのが妖精。どっちかって言うと妖精は日本での妖怪に近いかな。幽霊君は人間が手を出して共存できるけど、あの熊は違ったでしょ? で、幽霊でどうにかできるかと言ったら、難しい。幽霊で触れる事の出来る可能性はある。でもそれを物質で捕えらえるかは不明。どうにかするには事前の下調べ足りなかったんだ、ごめんミヤコ君シオリさん」


 自分たちの調べ不足で情報が足りなかったとツカサは言う。

 前日に目撃情報があってから、翌日には分厚いファイルを作っていたというのに、その中には肝心な情報は無かったらしい。

そもそもスナップドラゴンというのがヤバい遊びだったりします。

日本では絶対やっちゃ駄目なやつです。

調べて真似しちゃ駄目だよ。日本でやろうとすると火災報知器鳴るよ?

火遊び、駄目、絶対!

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