90.ミヤコ君と探し人
今日はソシャゲでレイドバトルがあったので、時間の大半をサメの悪役令嬢でノアの箱舟を殴ってジークフリートのレア演出を見るという楽しみに使ってました。
なので一話更新だけになるかと思ってましたが、何とか無事二話更新。
レイドボス倒せてないけど、趣味としてはこっちが優先。
「カルカン饅頭がどうかした?」
ぽつりと漏らされただけのミヤコの言葉をツカサが拾い問いかける。
「何か、凄く聞き覚えがあって」
ミヤコの言う聞き覚えという言葉に、ツカサとユカリははっとする。
シオリは自分の挙げた菓子にミヤコが反応したので、それにこたえる形でシオリは簡単に説明する。
「鹿児島の郷土菓子だよ。柔らかくてむっちりしてて他にない食感で美味しいんだ。西郷隆盛も食べてたって言う」
鹿児島と聞いてもミヤコはピンとは来なかったが、柔らかくて他に無い食感というのには、薄っすら覚えがあった。
子供の掌いっぱいに乗るくらいの、よくあるサイズの蒸し饅頭だが、表面の細かな穴がまるでカステラ生地のようだった。
「あの、それって蒸してあるもはもはしてる、こしあんの、白いお饅頭ですか?」
ミヤコはやっぱりそうだと確信する。
自分はそのご当地物だと言う饅頭を食べたことがあった。それも複数回。
「……知ってる、気がします。あの、お正月とかに、食べた覚えが、ある」
ミヤコはカルカン饅頭という言葉から色々と思い出していた。
正月に食べた。畳と炬燵の記憶がある。お年玉を始めてもらった時の事も思い出す。
あれは祖父の家でのことだった。
カルカンというどこか陽気にも聞こえる真っ白な菓子が、ミヤコはあまり好きでは無かった。だからと言って嫌いでもないし、祖父が何時も手渡しで食べるように言うので、それを食べていた。
ミヤコは思い出した。情景も、その時の感情も、いつも祖父がどうしてそれを用意していたのかも。
後から貰えるお菓子が胃に入らないと感じるくらいには、一つで腹が膨れる饅頭だったように思う。
あの当時は自分がまだ異能に目覚めていたなかったから、食事も人並みだったのかもしれない。
それでも、祖父母は母が好きだからと、母の帰省の時には必ず用意していたのだ。
「もしかして例のお爺さんの所で食べた?」
ツカサの問いにミヤコはこくこくと頷く。
思い出せたその記憶に、何か重要な事でもあるんじゃないかと、ミヤコは期待する。
「ミヤコ君のお爺さんって、鹿児島の人なの?」
ミヤコが祖父母を探していると言うのはシオリも聞いていた。
ただミヤコの記憶は七年前の災害以前がそこまで明確ではないので、九州のどこかに祖父母が住んでいる、程度しか分からなかったはずだ。
しかしそれを聞いてから数日で、ユカリは他にもいろいろ分かったのだと説明する。
「ううん、調べてみたけど鹿児島よりは熊本県内かな。でも県南だとは思う。鹿児島の文化ちょっと流入してる辺り。太田黒っていうのは熊本に多い苗字なんだ。それと以前ミヤコ君が食べたことのあると言ってた灰汁巻きは鹿児島や熊本の南部に多い。あとミヤコ君は柑橘類のジャムに懐かしい気がするって言ってたよね。晩白柚とかデコポンのジャム、あれ熊本の特産だから。それとこの間言ってた小さい頃に連れて行ってもらったっていうバラ園、海が間近に迫ってる公園、あと、ちょっと車で大きな青緑色の川沿いを走って鍾乳洞に行ったんだっけ? そう言うのからもたぶん熊本じゃないかなあって」
ここ数日でミヤコから聞き取った情報を並べて、そこから推察される場所があるとユカリはどや顔で説明する。
「まあだいたいあの辺り、っていうのは目星がついてる感じ」
そう宣言するユカリに、シオリもまた「ああ、なるほど」と頷く。
「青緑色の川沿いの鍾乳洞って、球泉洞かも? ってことは球磨地方?」
言ってシオリがスマホで検索した画像をミヤコに見せるが、ミヤコはよく分からないと首を振る。
特に球泉洞という鍾乳洞の画像には一切の見覚えが無く、そこでは無いと思うと否定する。
「あ、球泉洞って結構最近洪水の被害で施設が一新されてるから、見た目だいぶ違うと思うよ」
ツカサが車の運転をしながら、ミヤコが記憶にないのも仕方ないねと苦笑する。
景色というのはそうやって変わってしまう物なのだ。だから七年前の記憶では、今と景色が違っていてもおかしくない。
それでは祖父母が見つかるヒントにはなり得ないのかと、ミヤコは肩を落とす。
しかしユカリは大丈夫だよとバックミラー越しにミヤコにウィンクを投げる。
「場所的にはそこから海側、西に行ったところだから、芦北か水俣か、ってところかな。海の近い公園は芦北にも水俣にもあるけど、有名なバラ園と言ったらエコパーク水俣だ。今は残念ながら季節じゃないけどね、春と秋のローズフェスタは圧巻だよお。特にアイスバーグ系統のバラが多くてねえ、ユカリが好きなんだよあのバラ園」
ユカリは具体的な地名を出し、かなり絞れて来てると胸を張る。
「というわけで、今はその周辺の大田黒さんを探してるよ」
もうすぐ見つかる。そう確信させるユカリの言葉に、ミヤコはまぶしい物でも見るように目を細めた。
「探偵みたい」
「ふふー、名探偵ユカリさんだよ」
書けば書くほどセルフエコーチャンバーで熊本が好きになーるすきになーる。
本日の更新はここまで。