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89.和菓子談義

餡子を食べると、脳みそが喜ぶんだよ。

人間は大豆とか小豆食べると、特定のシナプスに電気が走るんだよ。

麦は人間に食べられるために進化したと言う人もいるが、豆も人間に食べられるために進化したと思ってる。

 車に戻り、まさかの七箱分のドーナツを前に、ツカサはちょっと調子に乗っちゃったねと笑う。

 その手には二リットルのウーロン茶のペットボトル。

 そのままラッパ飲みすると、ドーナツを一つ食べ始める。


「買いすぎちゃったかな?」


「お土産まで買っちゃったもんね」


 そう言って笑うユカリの手には一リットルの飲むヨーグルト。


 ツカサとユカリそれぞれの膝の上には、二箱ずつのドーナツの箱。


「買いすぎ……」


 明らかに一般人の一食分より多い。カロリーで胃を殴りつけるような夕食だ。

 ミヤコの分もしっかり一箱あり、飲み物は緑茶と牛乳をツカサに貰っていた。


 シオリの分だけは紙袋一つと、一リットルのオレンジジュース。

 自分たちに比べてあまりにも少ないのではないかとミヤコは不安になる。

 食べ物の量に関して、すっかりツカサたちの影響を受けているとは気が付いていない。


「シオリさんは甘いの嫌い?」


「ううん、好きだよ。でも油物よりさっぱりしてるのが好きだから、甘いのとなると餡子ばっかり食べちゃうんだよ」


 シオリは首を振る。

 餡子と聞いてツカサが問う。


「おはぎとかいきなりだごとか?」


 続けてユカリが問う。


「陣太鼓とか武者返しとか本丸とか五十四万石とか?」


 それは果たして本当にお菓子の名前なのか? もしかしてまた武将の話でもする気かとミヤコは首をかしげる。


「お菓子の名前だよ。陣太鼓とか小豆が好きなら絶対美味しいから! 今度買ってきてあげるね。あれは餡子や羊羹というよりも小豆! 小豆の美味しい和菓子なんだよね。特定の店舗でしか販売してないきんつばも美味しくてねえ。あ、ちょっと洋風の和菓子がいいならザビエルの誉れとかも美味しいよ」


 ユカリの好きな餡子物の菓子なのだろう。絶対にミヤコに食べさせる、という気概すら感じた。


 ミヤコはあまり和菓子を食べた記憶が無い。

 小学校までは両親と一緒にお菓子を食べてた気はするが、その頃は餡子はあまり食べられなかった記憶があった。

 以降は安い菓子パンに入った、あまり小豆の風味のしない餡子を食べたくらいがせいぜいだ。

 だが確かにどこかで餡子を食べた気がする。何処だったろうかとミヤコは自分の記憶を探る。


「和菓子なんですか?」


「そうそう、全部餡子入ってる。美味しいよ。シオリさんも好きだよね?」


「好きですね。破れ饅頭とか豆大福とかも好きですよ。あ、それとご当地物、かす巻きとか博多の女とかカルカン饅頭とか松露饅頭とか、小豆餡以外だと博多通りもんとかしらぬい饅頭も好きなんですよね。お土産にもらうと小袖餅とかは一人で人包み食べちゃうし、餡子だったらドーナツより食べますよ。だから社長室に置くの餡子にしてくれてもいいです。あ、でもモナカ類は皮が顎に張り付くから、ちょっと苦手かな?」


 シオリの目がきらりと光る。

 シオリとしてはドーナツよりも餡子の話の方が興が乗るようで、自分の好きな和菓子を並べていく。

 あまつさえ社長室の置き菓子にしてくれというリクエスト付きだ。

 ユカリもツカサも珍しくおねだりをするシオリに嬉しそうだ。


 並べられた菓子の名前に、ふっと、ミヤコの記憶に引っかかるものがあった。


「渋いなあ。いいよ、じゃあ次にシオリさんがクロノス来る時は香梅のお菓子置いとくね」


 それでシオリさんが気持ちよくお仕事してくれるならと、ツカサは快く請け負うと、ドーナツを食べるのを終えて、ウェットティッシュで手を拭くとシートベルトを締めた。

 まだ箱の中にはいくつも残っているようだが、車を出すようだ。


「出発するね。皆は食べてていいよ、食べこぼしちゃってもちゃんと掃除するから安心してね」


 ツカサの宣言を受け、ユカリたちもシートベルトを締める。

 車が出発すると、少しだけ無言の時間が出来た。

 誰も喋らない。無言のままにミヤコはシオリの並べたてた和菓子の名前を頭の中で繰り返し、自分の記憶にあった物をたった一つ口に出した。


「カルカン饅頭……」

陣太鼓、武者返し、本丸、五十四万石は、熊本の銘菓、お菓子の香梅さんのお菓子です。

五十四万石の美味しさを、誰か、誰か一緒に語り合わないか?他にはないんだ、あの美味しさは!


シオリさんが羅列してるのは、九州の個人的に美味しいと思ってる餡子のお土産。

熊本の他、福岡、長崎、鹿児島のお菓子。


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