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8.ミヤコ君のお友達候補

ただいまー、後始末マコトに丸投げしてきちゃった」


 事態の収束を送られてきた動画で見届けて一時間ほど経ったころ、へらっとした様子でクロエが帰って来た。

 後始末の丸投げとはいったいどういう状態何かミヤコにはわからなかったが、それでもマコトが不機嫌にツカサを睨むのが脳裏に浮かぶ。


 帰って来たツカサを出迎えることなく、せっせとおにぎりを作っていたユカリが顔を上げて返事を返す。


「おかえりー」


 ツカサが帰ってくる少し前の事。事態の収束を告げた動画の中継元からの接続も切れると、ユカリは現場に行ったツカサとマコト二人のために何故か米を炊きだした。五合というなかなかの量だ。

 そうして今、その半分がユカリとミヤコの手によっておにぎりに代わっている。瓶詰の鮭のほぐし身と阿蘇高菜を混ぜた物、チーズと紫蘇昆布を混ぜた物、叩き梅干におかかを混ぜた物と、微妙に手の込んだラインナップだ。

 おにぎりの形成はプラスチックの容器に詰めて型押しして作る簡単な物。ただし海苔にはこだわりがあるとかで、有明海産の海苔が絶対なのだと、ユカリはミヤコに力説をしていた。わざわざ携帯カセットコンロをリビングのテーブルに持ってきて海苔を炙るという。


 ユカリの手伝いとして使用する海苔を炙っていたミヤコは、作業をする手をいったん止めて、らへらへら笑うツカサをじいっと見つめる。


「……」


 その視線に責める意志を感じたのか、ツカサは視線から逃げるように顔を逸らした。


「そんな目しないでよ。僕はできる限り人目に付かないお仕事するようにしてるの。逆にマコトはね、元々表向きの力仕事やってる人だから、ああやって人目に付くところで陽動とか時間稼ぎをするし、後始末って言うか警察とか保健所とか大学の研究所の人とやり取りするんだよ」


「研究所?」


 一体何の研究所だろうか。

 考え得るのは異界について、もしくは異界の生物についての研究所なのだろうが、そんな物が熊本にあるとミヤコは知らなかった。


「そうそう、小泉八雲って知ってる?」


 もちろんだと頷くミヤコ。

 ミヤコは家に帰る事が苦痛だったため、放課後校舎が施錠されるまで図書室にこもることがままあった。そのため児童文学の有名どころはあらかた読んでいる。

 小泉八雲は怪談が主な著作だったが、それ以外にも理屈のはっきりしない怪奇現象の伝承について編纂した小泉八雲忌憚などがあった。


「小泉八雲って一時期九州にいたんだよ。九州大学付属小泉八雲研究所っていうね、九州には昔から多かった怪奇現象の情報蒐集や編纂してたところがあるんだけど、今は異界の影響だったって分かってるって言うか、公表されてるから、そこで一括して異界からの影響の情報集積してるんだよ。今回は異界の巨大馬を実際に目視して、平成式ドウタヌキで切りつけたっていう実績から、具体的な感触とか重さを知りたいからって、お話聞かせてーってさ」


「狸?」


 耳で聞くばかりではいまいちわからずきょとんと首をかしげるミヤコに、ツカサは違うと苦笑し説明をしてくれる。


「ドウタヌキ、すっごく硬くて重くて普通の人間には使いにくい魔法の武器。刀の形してるんだよ。振り回せさえすればよく切れる。しかも衝撃波機能付きだから、マコトが使えばいすゞのトラックですら真っ二つにできるんだ。すごいんだよ? マコトのドウタヌキ」


「いすゞのトラックは切っちゃ駄目だよ。オフロードではお世話になってるんだから」


 お世話になってる道具は切っちゃ駄目と、ユカリがちょっとズレた茶々を入れると、ツカサはふいっと視線を逸らす。


「やだな、本当に切っちゃいないよ例えだって。マコトにどこまで切れるか試してほしくておねだりなんてしてないよ。本当に本当に」


 いやこれ本当に切ってるな。だって具体的だったし。思ったがミヤコは空気が読めすぎる子供なので、あえて指摘ないでおく。

 常識人っぽく見えたマコトだったが、それなりにやんちゃはしているらしい。


「まったくもう。ミヤコ君には真似して欲しくないから、そういう事言っちゃ駄目だよツカサちゃん」


「ああ、まあ、そうだねえ。ミヤコ君、良い子は真似しちゃ駄目だよ?」


「まずできると思えません」


 真似するなと言うのなら、真似できる話をふってほしいと、ミヤコはちょっと困ったように答える。

 ミヤコはそれほど世間擦れしているわけではないが、流石にトラックを一刀両断にするのは世間一般の光景ではないと思った。


 不意に来訪者を継げるインターホンが鳴った。

 マコトが帰って来たのかとミヤコは思ったが、どうやら違うらしく、ツカサとユカリが僅かに警戒を顔に出す。


「あれ? 誰だろ?」


 インターホンのモニターにはマンションの玄関が映っている。


「はいはーい、と、ああ、シオリさんだ」


 ユカリがそこに映る人物を確かめ、慣れた様子でその人物をマンション内に入れた。

 警戒から一転、とても気楽な様子のユカリに、ミヤコは首をかしげる。

 口に出して訊ねないミヤコに、ツカサが聞いてもいいのにと苦笑する。


「えっとね、異能とか異界返りで虐待されてる児童の保護をしてくれてるNPOでお仕事してる人の娘さん。たぶんお母さんに言われて手伝いに来たんだね。ミヤコ君と同じ中学二年生だよ」

現実と創作の境界が曖昧なお話なので、作中に書かれている何処かは本当でどこかは創作です。


本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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