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80.わだかまり

「ごめん、君の事守れなかった」


 それは異形に飛び掛かられたときの事だろう。

 ミヤコは首を横に振る。


「えっと、俺が飛び出したから、仕方ないかと」


「ちがっ、そこじゃなっぐえ」


 その言葉にアセビも立ち上がろうとし、痺れた足がもつれたかそのまま床に倒れ伏した。

 ミヤコが慌ててアセビを助け起こそうとするが、その前にツツジがミヤコの肩を掴んだ。


「いや仕方なくない。最近水前寺付近で大き目な世界の罅が見つかって、修復を繰り返してたのは知ってたし、その兆候があるのも分かってた。だから遊びに行くんだったら何かしら武器になる物持って行く方が良かったんだ。浴衣だなんだって、浮かれすぎてた。ごめん」


 準備段階から不備があった。浴衣を選ぶよりももっとすることがあったのだとツツジは言う。

 水前寺という地名に、そう言えば聞き覚えがあったなとミヤコは思い出す。

 ツカサたちに捕まったその日に、巨大な馬の出現した場所がまさに水前寺だったはずだ。


「でもそんなの持ってたら、不審者なんじゃ?」


 いくら護身用でも、祭りに長物を持ち歩くのは不審人物過ぎる。


「カートの中に入れておけばよかったんだよ。お祭りだと光るおもちゃとか刀のおもちゃも売ってたし、そういうのにも偽装してあるのが我が家にもあったんだ。もしくは日傘に偽装してれば結構使えるってサトルさんも言ってたし」


 そう言うツツジの足元には、確かに妙な気配のする、一見プラスチックに見える模造刀。

 今まで神妙な顔で正座している代の男二人という異様さに目を奪われて、気付かなかったが……。

 ミヤコはたらりと冷や汗を流す。これドウタヌキと同じ気配がする。


「頑丈な棒さえあればだいたいの生物はどうにかなるって、サトルさん言ってたな」


 身を起こし胡坐で座り直したアセビが言う。

 床に置かれた模造等を持ち上げ軽く振る。

 振った時の音が明らかにプラスチックのそれではない。


 それにしてもサトルという名前は確か前も聞いた気がするなと、ミヤコは首をかしげる。

 答えたのはサツキ。


「兄貴の親友。本人は驚くほど荒事向きじゃない身体能力とか性格なのに、何故か異界の侵入が起こってる所の最前線に行ったら確実に結果残して帰ってくるタイプのヤバい人(ツカサの同類)だ」


「何でその人の話を今?」


 以前ついミヤコが聞き耳を立ててしまったツカサとシオリの会話で、異能を使う分のエネルギーを食物から得られない人という話だった。


「兄貴から連絡があったって言ったろ? その時に、サトルだったら日傘に魔法かけてある鉄芯仕込んででも持って行ったはずだとよ。特殊警棒代わりに日傘で刃物持って錯乱してた暴漢押さえつけたこともある人だから、まあ信憑性あるわな」


 サツキが盛大なため息を吐き、アセビがさらに振り回そうとする模造刀を取り上げる。


「何でサトルの十分の一も働かないの? 危機感足りてないの? 世界の罅の現物ミヤコ君が見たって報告したのに、その後の対応何も考えなかったの? って、ねちねちねちねちされた」


 アセビはツカサに嫌味を言われたのが相当答えたらしく、胡坐のまま背後のソファーに背を預けて唸る。


「うるせーよ、あんな常在戦場野郎みたいな行動できるか。いつ死んでも悔いはないみたいな振る舞いしやがって、うっぜえ、クソうっぜえ」


 いつになく不機嫌なアセビの喚き声に、ミヤコはおろおろとツツジとサツキを見やる。


「ごめん、ミヤコ君を不安にさせて」


 ツツジは謝るばかりだ。


「言わせとけ言わせとけ、その内治まるから」


 サツキは何処か突き放したような、アセビの放置をミヤコに勧める。


「死にに行くなら勝手にやってろ、俺ら巻き込むなっての。だいたいあのクソ兄貴どもは自分たちが場数踏んで戦えるからって、それを人にまで強要してくんじゃねえっ。あんたらはビビらないんだろうがこっちは極々一般人と変わらねえんだよ、とっさに動けるわけねえだろ!」


 アセビの喚きは止まらない。


 知ってる人や知らない人の悪口をずっと聞かされる方の身にもなってほしい。

 ミヤコは珍しく苛立った。


「俺は動けましたけど」


 だから、つい言ってしまった。

 アセビがびくりと肩を跳ね上げる。


「俺は……人のために動けました。難しいことかもしれないけど、できない事じゃないと思います」


 淡々としたミヤコの声に、アセビは顔をぐしゃりとゆがめる。

 唇をわななかせ、怒りをこらえるような、苦しげな表情祖をしながらも、アセビはミヤコに頭を下げた。


「……悪い」


 その謝罪が口先だけか、それとも本当にミヤコの言葉に恥じ入っての物かは、まるで分らなかった。


 ミヤコは今日はもう疲れたからと、ツツジの手を振り払いリビングを出ていく。

 背後で殴打の音とアセビの嚙み殺したようなうめきが聞こえた。きっとサツキがげんこつでも落としたのだろう。


「……だって、さ、死んだら……もう取り返しがつかねえだろ」


 かすれたアセビの声を、ミヤコは聞こえないふりして部屋へと帰った。




 翌朝、ミヤコは気まずい気持ちでリビングへ行くと、そこにはいつの間に来ていたのかユカリがいた。


「おはよう。朝ごはん食べたら早速だけど、会社いこっか。シオリさんにも連絡入れてるから、用事が無かったら来てくれるはずだよ」


 気まずい朝食の席を、ユカリで何とかカバーして乗り切り、ミヤコはクロノスへと向かった。

サトルさん。

丈夫な棒で何とかしたがる。

激戦があるとだいたい気絶するし、生き物頃しちゃうと嘔吐しちゃうし、メンタルは豆腐だし、体力は底辺だし、ビジュアルは病気の猫って言われるような人。

何故か生き残る。たぶん即死回避能力がどっかについてる。

何時も胃を壊してて、身内とはほぼ没交渉。

心から尊敬してるのはアンパンマン。

そんな人。

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