78.民を守り抜く
この作中に出てくる熊本城おもてなし武将隊は、実在の団体、人物をモデルとした、架空の団体、架空の人物です。
架空の団体、架空の人物です。
架空の団体、架空の人物です。
「はっ!」
「でやあ!」
ミヤコの背後で裂帛の気合と共に、ギャアギャアと異形の悲鳴が聞こえた。
恐怖を煽るけたたましい悲鳴にミヤコは耳を押さえ身をすくめてしまう。
ひときわ大きな断末魔が響いた。
ドシャ、と異形の重い体が頽れ倒れる音がした。
異形の音呼吸音が消えていた。
ミヤコは恐る恐る背後を振り返った。
「え……」
そこにいたのは直垂姿の二人の武将。
先ほどまで祭のステージで見ていた姿そのままの二人が、手に見覚えのある抜き身のドウタヌキと片鎌ではない槍を持って立っていた。
二人の構える刃物には、たった今付いたのだろう滴る血が見えた。
二人の背後から黒いTシャツの男がさっと現れたかと思うと、手にしていたブルーシートを慣れた手つきで異形の死体に被せた。
それを見届け、二人の武将が大仰に頷く。
加藤清正が懐から、何か布の小袋のような物を取り出した。
緑色の手のひらにすっぽり収まる程度の小袋だ。小袋からはスッキリとした甘さのある樹木の香りがした。
しかしその香りの中に、異界の物とも違う魔法の気配を感じてミヤコはびくりと肩を跳ね上げる。
武将はぐるりと周囲を見渡し、大村善前が朗々と響く声で周囲の人に問う。
「肥後の民よ、大事は無いか?」
加藤清正が小袋を軽く振りながら、雄々しい声で宣言する。
「もう怯えることはない。無事異形の者は退治た! これよりここにおる大人のみを対象に、聞き取りを行う故、子連れで無い者は今しばしとどまってもらえぬだろうか」
その言葉に合わせて、子供連れの大人はすっと場所を開け数歩下がり、子連れでない祭を見に来た人たちが武将たちの傍へと集まった。
まるで何時もの事とでもいうような、どこか手慣れた様子。
少しずつ薄暗くなる時間。それでもミヤコの目には見えていた。武将たちの傍に集まる大人たちの視線は、どこか焦点が合っていない事を。
「え……なにこれ……」
それが小袋の効果なのかもしれないと、ミヤコが気付くのは当然だった。
ミヤコは手で鼻と口元を覆う。
ミヤコは目の前の二人に対し、言い知れぬ恐怖を感じていた。
「ありがとうございます殿!」
そう朗らかに、大きな声でツツジが言うと、それまで最も異形の傍にいたミヤコの腕を引いて向きを反転させると、そのまま両腕で抱え込むように自分の胸に抱きしめる。
「うちの子が、おかげで助かりました!」
ツツジはミヤコの顔を自分の薄い胸板に押し当て頭を抱え込み、まるでミヤコが喋らないように押さえているようだった。
「大村さまも有難うございます」
「ありがとうございます!」
ツツジに続いてツバキも、ミクと一緒に大村善前に礼を言う。
大村善前はツツジたちをじっと見て、全員の顔を確認すると、大きく頷いた。
「うむ、皆無事であるようだな」
僅かに震える声に、ミヤコは大村善前が動揺しているのを感じた。
もしかしたらミヤコを助けるのに間に合ったことに、安堵をしているのかもしれない。
ミヤコも今更ながらに自分が間一髪助かったのだと自覚する。
「しからば、我らはまだいるであろう残党を探し、殲滅せねばならぬ故、事、クロエの主に伝えてくれ」
続いた大村善前の言葉に、ミヤコは驚きツツジを仰ぎ見る。
ツツジはミヤコとは視線を合わせずただ朗らかに武将たちとのやり取りをする。
「畏まりました。必ずや兄に伝えます」
うむ、と頷く大村善前。
「大村殿! 少し場所を変える故、こちらへ来てくれ」
「あいわかった。それではのクロエの。わしらはこれでさらばじゃ」
大まかな聞き取りを終えたらしい加藤清正が軽く手を上げると、大村善前はそれに気が付き、ツツジたちに向かって挨拶をし、颯爽と黒Tシャツたちとともに公園の方へと駆け去って行った。