77.ミヤコ君は見捨てない
投稿失敗しましたすみません。
暴力描写有ります。
人命の棄損は極力減らしつつ、物損は全力でやりたいです。
ギャン! と呻いて異形が道路に転がる。
しかしすぐに異形は立ち上がり、自分を打ったものが何かを確認すると、大きく跳躍してカートに鋭い爪を振り下ろした。
カートは無残にもへし折れ引き裂かれ大破し、中身を散乱させながら弾き飛ばされていく。
異形がカートに気を取られている間に子供を二人抱えた男は祭りの行われていた公園近くまで逃げていた。
個人を認識できているか分からないが、少なくとも周りの人間を無視してまであの親子を狙う事はないだろうと、ミヤコは僅かに安堵する。
異形はカートが何かの生物ではなくただの物質だと気が付いたか、すぐにまた周囲の人間に視線を向ける。
既に何人かは避難していたが、あまりにも異形の近くだと、走り出すと追ってくると分かってしまったからか、ミヤコたち以外も動けずただ異形の出方を窺うばかり。
異形が次の獲物と定めたのは、どうやら近くにいた子供らしい。肉食動物は群れの中でも特にか弱い者を狙うのだと、ミヤコは本で読んだことを思い出す。
やけに白めの多いぎょろついた目玉が、母親に抱えられた三歳くらいの子供にに向けられた。
「逃げられない……」
母親は足を擦るように後ろへと下がるが、異形はそれと同じくらいの速度でじりっと距離を詰める。
背を向ければ飛び掛かられる。母親は子供の頭を自分の肩に押し付け、異形の悍ましい姿を見せないようにしている。
このまま逃げ出せないなら、背を向けて身を丸め、わが身を犠牲に子を守るかもしれない。
「どうしよう僕の異能こういう時本当に役立たずすぎだ」
ツツジが泣きそうな声で言う。
ツツジの異能は何かは知らないが、言うからには何かあるのだろう。
「そういうの言うな」
自分たちの身を守るので精一杯なアセビが、喉を引きつらせながら呻きツツジを睨む。
ツバキが自分がと動こうとするのを、アセビは震える手で制している。
ミヤコは自分が出来ることは他にないかと視線を巡らせる。
さっきはカートをとっさに掴んだ。それを投げたら思った以上に威力があった。
しかし今は投げられそうなものは何もない。
それでも何もしないよりはと、ミヤコはアセビの傍を離れ、靴を脱ぎ異形に向かって投げつけていた。
投げつけられた靴に横面を打たれ、怒りに燃えた異形の視線がミヤコに向いた。
アセビが慌ててミヤコを引き戻そうと手を伸ばす。しかしミヤコはその手とは逆に走り出した。
アセビの隠匿の異能は完全では無い事を、ミヤコは気が付いていた。
大きな声を出したり注意を引くような動きをしてしまえば、効果が無くなるのだ。
だからアセビたちを巻き込まないようにするには、ミヤコはこの場から立ち去る必要があった。
祭りの会場である公園からは離れた方がいい。
川沿いの一本道、逃げるとしてもできるだけ人の少ない方へ。
ミヤコはためらわずに異形へ背中を向けていた。
ミヤコは見えずとも背後の音が聞こえている、だから襲われてもよけきる自信があった。
異形が舗装された地面を掻く音も、大きく濡れた息を吐きだす音も聞こえていた。
背を向けて走る相手を獲物と定める習性でもあるのか、異形は先ほどのように高く飛び上がりミヤコへと襲い掛かった。
ミヤコ体を前に投げ出すようにして、異形を振り返ることなく避けた。
一回目。まぐれではない。けれど立て続けに上手く行くとも限らない。
ミヤコの事を心配して追ってくる複数の足跡が聞こえた。
巻き込むわけにはいかない。ミヤコはすぐに立ち上がり、駆けだそうとした。
本日の更新はここまで。
明日も頑張りたい所存。