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76.ミヤコ君と水虎

場所はだいたい加勢川沿い。藻器堀川に切り替わる宮園橋に向けて歩いている所。

知っている人は知っている、ガラスが流れているのかと思うほどに美しい透明度を誇る、湧き水の川!

そう、びっくりすくらい綺麗な湧き水の川なのです!

是非見て欲しい。

たまにライトアップしてたりする。

竹明かりとのコラボの時は本当にきれいできれいできれいです!

「アセビさん、今、何か……」


 ただの声じゃない、不吉な気配を感じる声に、ミヤコはアセビの腕を取る。


 聞こえていたのはミヤコだけではないようで、周りの人たちも一部は不思議そうに「なんか変なの聞こえなかった?」「いや聞こえないけど」「犬?」「鉄パイプ同士高速で擦り付けたみたいな音がしてる」とざわめいている。

 聞こえる人間と聞こえない人間にはそれなりの差があるようで、何故具体的な鉄パイプ音を知っているのか知らないが、かなりはっきり聞こえている者もいるようだった。


 また犬の遠吠えが聞こえたと思ったら、右手に見ていた川の水が大きく立ち上がり、ミヤコたちに降り注いだ。


「っ……」


 とっさにアセビがミヤコを守る様に覆いかぶさり、ツツジがミクを抱え込む。ツバキは手にしていたブタ串とソーセージを袋ごと丸めて腹に抱え込む。


 最も川に近かったアセビとミヤコがずぶ濡れになり、ツツジやサツキも幾分か飛沫を被った。


 それぞれが守るべきものを守る行動をしていると、いくつもの悲鳴が聞こえて来た。

 顔を上げるとそこには、大型犬ほどもある異形の生き物が体を震わせていた。

 犬のような四足歩行で、毛と耳のない犬とすっぽんを混ぜたような顔立ち。緑がかった灰色のぬめる体にはところどころ鱗が生えていた。


 ミヤコは一目で断言する。


 だがそれと同時に、ミヤコはそれが所謂河童や水虎と呼ばれる妖怪によく似ていることに気が付いた。


「異界の生き物だ」


「異界の侵入だね。この辺りって言うか、水前寺付近多いんだよ」


 ミヤコの言葉にツバキはなるほどと納得しながらアセビの腕を取る。それに倣うようにツツジもアセビの方へと近づき、五人は団子のように固まる。

 するとアセビの体表からじわりと黒靄のような物が滲み出た。


「これであいつからは見えにくいはずだけど」


 アセビが異能を使ったのだと分かった。


「もともと水前寺には世界の罅が入りやすいとは聞いていたけどねえ……よりによって今日か」


 ツツジは困ったねと笑いながら、スマホを取り出し通信アプリを立ち上げる。ツカサたちへ短い救援要請を送り、ツバキはすぐにスマホを浴衣の中にしまい込む。


「少し時間稼ぎした方が良いかな? この生き物が凶暴でない可能性は少なさそうだし」


 ははっと笑ってツツジは言うが、目の前の異界の生物は、確かに肉食然とした無数の騎馬を持った口をし、足もかぎづめが大きく、先ほどからがりがりとアスファルトの道路を掻いて抉っている。


 すぐに動き出さないのは、自分の置かれている状況が分からないからかもしれない。

 周りにいる人間たちをじろじろと見ながら、グルグルと唸っている。


 近くにいた子連れが、火事場の場か時からと言わんばかりに子供を二人小脇に抱え、異形の生物に背を向けて駆けだした。


 その動きに反応したか、異形がバウ!と吼えて飛び掛かる。それは本能的な物だったのだろう。

 ミヤコはとっさにツツジの引いてきたカートを掴み、異形に向かって投げていた。

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