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73.ちくっとうんちく

 すっかりステージに夢中なミヤコの横で、ちょっと残念そうにツバキが呟く。


「武将……甲冑じゃない」


「流石にねえ、夏場は直垂着てのパフォーマンスだから。冷え込んでくる時期になると、金属の甲冑を身に着けるようになるからもっともっと格好良いよ。歩くだけでもガッシャンガッシャン音がしてね、うっかり後ろから歩いてこられた時は武将に切られる! って思って怖かったんだよね。出陣の時間にうっかり遭遇しちゃって、熊本城の見学通路でガッシャンガッシャンって音に追われたときはドキドキしたよ。でもそれも格好良い所だと思う。なんたって本物の鎧だからね!」


 もっと気温の低い時期には本物の金属を使った、重さが十五キロからに十キロはある甲冑を着てステージパフォーマンスをするのだと説明するツバキ。

 冬になると金属の鎧は体温を奪ってしまうので、とても寒いらしいという豆知識も披露する。


 武将たちのステージパフォーマンスは、まず挨拶から。

 豪快に笑い、いかにも武将然とした口調であっぱれあっぱれと観客を煽っている。

 このいかにも武将だと感じさせる古風な言葉遣いで、平素の話題を取り上げたり、現在進行形のアドリブで回すのは、いかに難しい事だろうか。

 立ち姿、二人の間合い、手にした小道具のさばき方、鷹揚な視線、言葉の端々迄彼らは武将だった。


 水前寺と言えばそれを作ったのは細川家なのだが、今回は細川忠興から頼まれてここに来たとの事。

 お決まりの流れなのか、簡単におもてなし武将隊とは何かを説明する。

 大きく脚を開き槍を横手に構え、よろしゅうお頼み申すと挨拶をする加藤清正の、頼れる我が殿といった貫禄。

 本当に生きている武将がいる。ミヤコは熱のこもった視線をステージに向け続ける。


 ダン! ダン! ダン!

 危機感を煽るドラムの音が響いた。大村善前が敵襲を告げる。

「敵襲! あまたの軍勢がこちらに迫っておりまする!」


 寸劇が始まる。

 本日は細川忠興に託された水前寺の地を守ろうと、二人の武将が頷き合う。

 そて演舞が始まった。


 空手を模した和装によく合う舞。空を力強く打つ拳、高々と掲げられる脚。

 戦場を蹂躙する拳打蹴脚の末、二人はまるで霧の中にでも迷い込んだように歩みを遅らせる。

 霧を抜けた先には数多の敵将がいたのだろうか、大村善前は刀を抜き、加藤清正は槍を構えた。


「はあああああああ! はっ! はあっ!」


 大村善前の一閃が見えざる敵を切り伏せる。

 加藤清正の槍が敵を薙ぎ払う。

 見えざる敵は一体どれほどいるのだろう。切っても切っても終わりは見えず、彩乏しい直垂が重く血塗られていくかのようだ。


「演舞ね。ほら、スッゴイ振り回してる……今日は槍なんだなあ。あれはね、片鎌槍。加藤清正が虎退治に使って、虎に片方の十字の槍の刃を折られてしまったという逸話があるんだ」


 迫真の演舞を前に、見慣れているのかツツジはのんきに感想を溢す。

 普段は刀を使うところを、今日はどうやらステージの広さに余裕があるため、加藤清正の象徴でもある片鎌槍を振るっているとツツジは解説をしてくれる。


「やりなんだなあ」


 ミクがそんな感想やうんちくを適当に流す。

 ミクの目は加藤清正よりも大村善前に向いている。


「ミクちゃんはあっちの茶色い着物のお兄さんが好きだよね」


「好きだよね」


 ツバキの言葉にミクは嬉しそうに同意する。


 楽しみつつも会話をする辺り、ツツジもツバキもミクも武将の演舞にだけ夢中という事はないらしい。


 ミヤコは一人真剣に演舞を見つめる。

 演舞には手拍子を要求されるようで、ミヤコは周囲の人間に合わせるように手を打ち鳴らす。

 そして演舞の終了に大きな拍手が響いた。

やりたいことをやり切った思いです。


本日の更新はあと一回。

夕方六時に予約投稿の練習をします。

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