72.いざ出陣!
作中に出てくる熊本城おもてなし武将隊さん、並びに武将様方は、実在の団体、人物をモデルにしています。
営利目的ではないのですが、もし作中に出すことに問題があるようならお知らせください。
即刻別の架空の団体に書き換えます。
たぶん「熊本武将パワーレンジャー」的なご当地ヒーロー的な何かになります。
秋田のネイガーさんとか茶神888さんみたいな感じに。
ミヤコとアセビがジェーンズ邸の事をツカサに報告している間に、水前寺夏祭りのステージイベントが始まってしまったらしい。
こういったイベント物の司会にしては野太い声が聞こえてきて、ミヤコは振り返る。
「あ、ごめん、すぐ行こう」
アセビに手を引かれ、ミヤコはツバキたちが待つテーブルへと向かった。
和太鼓の骨に響くような演奏を聞いて、カラオケ大会の十人十色な歌声を聞いて、出店で買ったソーセージを食べて、カレーを食べて、かき氷を食べて、ミクが氷ミカンを食べ過ぎて、としているうちにカラオケ大会は終わって。
ツツジが時計を見る。
「ちょっと時間押してるな」
カラオケ大会が終わる予定時間が遅れていたらしい。しかしカラオケ大会前半戦は最後の曲となった。
素人というには歌唱力の高い人たちも結構多かったようだ。
「うーむ、最近のカラオケ大会って歌うまに極振りしてる人多いなあ。面白ネタ仕込んでくれててもいいのに」
とはツバキの言。
カラオケ大会も無事終わり、目的だった武将のステージがこれから始まるのだと、ミヤコは珍しくワクワクした気持ちでジェーンズ邸前のステージを見つめた。
テレレレ~デッデン! と力強いイントロが聞こえて来た。
「あ、始まるよ」
ツツジがステージを指さす。
ステージの右手から悠然と歩き来る直垂姿の二人の男。
一人は落ち着いた茶色の、一人は威厳ある漆黒と身の丈を超える槍を持った。
デッデッデデデッデッデと変則的に刻まれるリズム。
黒い直垂の男が口を開く。
「皆の者! 名乗りを上げよ!」
茶色の直垂の男が応! と応える。
「混沌たる世が訪れようとも、民を守り新たなる時代へ導く事こそ、大村家当主たる我が使命。時に、苦渋の決断を迫る事も有ろう! されど全ては安寧の世を求めるため! 我が心はともに民と共にある! 雄邁卓犖、我が身命、民の生きる道を切り開かん! わしが肥前国大村藩初代藩主、大村善前であるーっ!」
朗々と響く張のある声に、ミヤコはおおっと感嘆する。
黒い直垂の男がずいと前に出て、槍を掲げ、続いて名乗りを上げる。
「我が国造りの極意とは水を制する事にあり。清き水を正しく用い、後の世のため、民と往く! 之すなわち、この強き熊本の礎なり! 肥後を想いし者あらば、我らとともに来い! 我こそは、肥後国、熊本城築城者にして初代城主加藤肥後守清正じゃああぁっ!」
大きく槍を振るい、一言一言を噛んで含めるように力強く伝えるその声は、獅子や虎のうなりの如く。
虎を退治し、虎と謳われた孟将の風格が観客たちに叩きつけられる。
二人の武将はもちろん現代を生きる人間だという事はミヤコにも分かっていた。実在する武将の名を用いて演技をしているのだと。
しかしその完成されたパフォーマンス、言動、風格は、まるで本当に何百年も前に生きた武将が当世によみがえって来たかのような錯覚を覚えた。
「はっ!」
裂帛の気合と共に二人の男は横並びに。掲げられる右の手は天を掴むがごとく。
「熱き想いをこの胸に! 我ら熊本城おもてなし、武将隊!」
ミヤコはたまらず拍手をしていた。
格好良い! すごい! 昔見た戦隊物みたいだ!
色味は少なく、声は野太く、派手な爆発があるわけでもない。
だがそこにある迫力は間違いなく、忘れてしまう程昔に、幼子心を沸かしたあの興奮を呼び起こした。
ミヤコの顔が上気する。
この光景を記憶に留めんと、大きく目を見開き、ミヤコはステージに見入った。
愛情たっぷりに書いております。
寧ろ愛情しかないのです。
武将さんたちの完成度は凄いのです。
本当に武将さんなのです。
腕とか脚とか、ムッキムキよ。ムッキムキ。