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62.目覚ましビンタとデリカシー

「目覚ましビンタ?」


 何やら暴力的な言葉にミヤコは首をかしげる。


 その言葉を聞いたとたんツカサの顔が不機嫌にゆがめられたので、あまりいい言葉では無いのだろう。

 ただツカサはすぐには文句を言わず、不機嫌そうな表情を消し、口いっぱいにアジフライを頬張って話を無視する態のようだ。


 代わりにアセビが応える。やはりサツキと同じようにくつくつと喉を鳴らして笑っている。


「兄さんにするんだよ、ビンタ。それされてしばらくは自殺願望落ち着くから、目覚ましビンタ。最強の武器だね」


「だからジサツじゃないって」


 口の中のアジフライを飲み込んで、自殺と言われるのだけは否定をするツカサ。


 本人が言われたくないことはあんまり言わない方がいいと思うんだけどな、と思いつつも、ミヤコもそれを口にしない。

 ユカリとマコトが少し困ったような、怒ったような、眉間にしわの寄った表情をしていたからだ。

 たぶん自分が余計な口を出してはいけないのだ。ミヤコはそう思ってツカサを見る。

 いつもの作り笑いをしていた。


 ツカサが自殺願望があるかどうか、聞いた時もツカサははっきり答えなかった。

 しかしツカサがミヤコを同じ災害の経験者だから、という理由で保護しようとしている時点で気が付いていた。

 死ぬのに正しい機会があるのなら、死んでしまいたいと思ってるのだと。

 それはミヤコ自身がいまだに抱く思いだったから。


 でもきっと、それを言葉にしてつきつけたら、ツカサは傷つくのだろうと、ミヤコはツカサの感情の読め無い作り笑いを見やる。

 ユカリやマコトもこの話にはあまりいい顔はしていないが、わざわざ口に出しては言わないようだ。


 悪い子達ではないけどデリカシーが無い、それがこの家に住まないツカサ、ユカリ、マコトたち三人の共通の意見らしい。

 もう成人も済んだ大人なのだから、デリカシーが無い事をわざわざ咎めてやるつもりも無いのかもしれない。


 ただ、ミヤコとしては友人の事については放っておけなかったので聞いておく。


「それって、言われてることシオリさん本人知ってますか? 言われて、嫌って、思ってないですか?」


 ふぐっと、口にしていた味噌汁を飲み込み損ねてアセビがむせる。


「シオリさん優しい人だから……そんな暴力的な呼び方、好きじゃないと思います」


 サツキはミヤコに言われて慌てて否定する。

 子供に諭されるような話だと思ってなかったのだろう。


「いやいや、本人の目の前では流石に言わないが?」


 本人の目の前で言わないなら陰口だ。

 ただ内容としては悪意のある言葉ではない。ただのからかいの一端。よほど繊細な人間でもなければ傷つかないような言葉だろう。

 それでも、ミヤコは友人をからかわれたようで、なんだか嫌だった。


「シオリさん自分の異能嫌いだからねえ、それを揶揄して笑ってたら、きっとサツキたちの事嫌いになるね」


 ふうと、ツカサがため息を吐く。


「嫌いになるね!」


 そこにミクまで追従しだした。

 それがとどめだったのだろう、サツキとアセビの二人は箸を置き、ミヤコに向かって頭を下げた。


「悪い、その、失礼だった」


「ごめん、今の取り消す」


 二人の謝罪を受けながらも、ここで許すべきは自分なのだろうかと、ミヤコはちょっとだけもやもやした気持ちになった。

 そんなやり取りを、ツツジは酷く悲しそうな顔で見ていた。

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