59.ツカサという男
ツツジとツバキも室内へ戻ってきたところで、ミクに聞かせられない話をするかもしれないからと、まだ残って夕飯の支度をしていたコハナが、ミクを連れて一時避難をすることに。
ミクが出ていったのを見届けて、アセビはツカサとマコトに向き直る。
「はあ、でも……焦げてたの二人だけだし、本当みたいだね」
アセビの言葉に、ツツジもツバキもツカサとミヤコを見比べる。
ミヤコは今朝出かけた時と何ら変わらぬ様子。怪我も汚れも無ければ、汗もそれほどかいてはいないようだった。
これほどまでに自分には信用が無いのかと、ツカサは肩を落とす。
「君らは僕を何だと思ってるのさ」
ミヤコを見やり、ツカサを見やり、少し迷った末に、ツカサの言葉にアセビとサツキが答える。
「……理不尽の権化」
「自殺を見せつけてくる」
サツキの言葉にびくりとミヤコが肩を跳ね上げる。
ツカサはミヤコを見やり誤解だと首を振る。
「自殺はしてないよ?」
しかしサツキは自分の言い分は間違っていないと続ける。
「庇ってもらった恩はあるが差し引いても、ことある毎に危険なところに自ら行って、俺たちの目の前で死のうとしないでほしい」
「んー無理」
間髪入れずに作り笑顔でツカサが応える。
そんなツカサの頭を背後からマコトが鷲掴んだ。
「少しは考えろ」
作り笑のツカサに目を合わせ、ミヤコは問う。
「ツカサさんは、自殺したいんですか?」
「だからしてないって……」
それは若干ミヤコの問いの答えからはズレていた。
したいかしたくないかの気持では無く、しているかしていないかの行動を答えるツカサ。
「それよりもお腹減ったんだけど、ご飯できてる?」
わざとらしいくらいにわざとらしく、視線だけでツバキを見やりツカサが問えば、ツバキは急いで作りますとキッチンへ。
「じゃあご飯が出来るまでこの話はおしまーいってことで。僕とマコトは着替えてくるねえ」
焦げた服のままじゃご飯どころじゃないからと、わざとらしくおどけて見せるツカサに、ミヤコは胡乱な物を見る目を向ける。
「本当に自殺のつもりはないんだってば。そう見えちゃうのは否定しないけどねえ」
ニコニコと作り笑いのツカサの言葉は、周囲のツカサを知る人間たちには受け入れられていない。
ミヤコはツカサの本心は何処にあるのだろうかと、感情の読めない笑顔をじっと見つめた。
ツカサはそれに答えず、さっさとリビングを出ていく。
残されたミヤコたちは気まずげに視線を交わし合う。
「うーんとりあえず、爆発ってこれ?」
そう口を開いたのはユカリ。手には仕事で使っているだろうタブレットが掲げられ、ウェブニュースのページを表示していた。
熊本城の二の丸広場横、県立美術館から護国神社へ向かう道で爆発があったとの内容だった。
「幸い爆発物を持ってた犯人の外は軽傷者が二人、それ以外はなかったって書いてあるけど、この二人ってもしかしてツカサちゃんとマコトちゃん?」
ニュースを見ていただろうサツキがたぶんそうだと答える。
「二十代会社経営者と二十代会社員って言ってたからな。こんな危険なことに頻繁に巻き込まれる会社経営者は他にないと思うぞ。あと会社経営者の男性が不審な男に気が付き制止しようとしたら爆発したって言ってたからな」
「細川刑部邸付近から熊本城の二の丸広場方面に向けて歩いている不審人物とか、普通に歩いてるだけで不審と気が付く人間がどれくらいいたんだか」
「それと、もう一人の軽傷者は二の丸広場方面から来て、道路の上に架かった高台にある橋の上で不審者の通行を邪魔したってさ。正面塞いで背後から自分が近づくって、明らかにツカサ兄さんがマコトさん囮にする時のやり方だ。それでマコトさんはよく怪我してるだろ」
サツキとアセビが交互にテレビのニュースで言われていた状況を説明する。
ニュースでは明確にツカサたちがかかわっているとは言っていなかったが、それで揉サツキたちがツカサに違いないと断言するだけの情報はあったのだろう。
ミヤコは少しだけどうでもいい事を考える。
マコトさんって二十代だったんだ。てっきり三十代かと。
多分これが失礼な感想だと言う事は分かっていたので、ミヤコはしっかりと言うのを我慢した。
熊本城を知っている地元民ならどこか明確に分かる場所。
護国神社の目の前の梅園は梅の季節に行くと圧巻の……スズメとメジロの乱舞が見られます。
めっちゃ梅食われとる。
細川刑部邸は紅葉の季節の夜間開園がお勧め。
地震で壊れちゃってる所もあるけど、ライトアップは綺麗だし、何よりキッチンカーが美味しい。
ビーフウィズライスとバインミーとかだごまるのスパイスカレーとか、季節によってはソフトクリームもお勧め。
知らないのならぜひ行ってみて欲しい場所。
熊本城周辺って広さの割に意外と人が少ないのです。
色んな施設があって面白いよ!
マジで面白いよ!
もっと行こうぜ熊本城!
この小説は愛する熊本への愛と破壊衝動をつづった物だと言う事を再三主張します。