55.ミヤコ君と怪談
夏と言えば怪談!
本当はもっとゾッとさせたかった。
でもミヤコ君は有霊見えるからこそ嫌い系の子なので我慢我慢。
昼食後少し休憩をして牛乳を飲んだ後、午後はクロスノックス社で、実際に異能を使ってみようと言われた。
午前の検査はミヤコの虐待の証拠にするため。午後からの検査はミヤコの異能について詳しく知るためだとユカリは言う。
再びクロスノックス社の正面入口へと向かい、グラマラスでもっふもふなウサギと女性からゲスト社内証を受け取る。
検査をするのは二階の施設だと言われ、エレベーターホールへ。
エレベーターを待つあいだ、シオリがミヤコの肩をぽんぽんと叩いた。
「ミヤコ君頑張って」
と無表情かつ無責任なシオリの応援に、ミヤコはなさけなく眉を下げた。
「何を?」
「さあ?」
シオリも異能の検査の内容は知らないという。知らないと言う割に、その声はちょっと震えていた。
「クロノスの方でやらないでクロスノックスの方で検査するってことは、多分検査する人も異能持ちなんだと思うけど……嫌な予感がするから」
言いながらシオリはユカリを見やる。ユカリはそれに答えずニヤッと笑っているばかり。
「言っちゃったら検査にならないのかもね」
ユカリが答えないのならそうなのだろうとシオリが言い、ユカリも無言でうなずき肯定する。
シオリの言う嫌な予感が何かはわからないが、ミヤコは不安に駆られごくりと唾を飲んだ。
すぐにエレベーターはやって来た。乗り込んでしばらくすると、ミヤコはそこに見てはいけない物を見つけ、ビクリと肩を跳ね上げた。
エレベーターの右奥に女性が乗っていた。
長く艶やかな真っ黒な髪をした、血のように真っ赤なボタン柄の着物を着た顔のない……人ではない何か。
その体つきはとても細く、女性的な柔らかなラインは一切無かった。まるで飢餓に襲われなくなってしまった人のように、肌はかさつき血管は青く浮き上がり、骨ばった手の爪は縦の筋が入ってひび割れている。
顔もただ無いのではなく、まるでテレビの砂嵐の映像が張り付いているかのようだった。
音はしない。見えなければそこにいると分からない。
しかし確実にミヤコには見えていた。
シオリには見えていないらしく、ミヤコが凝視する空間をちらと見遣っても顔色を変えない。
ユカリがミヤコの視線に気が付く。
「あ、その人うちの会社の地縛霊。悪い人じゃなくて、どちらかと言うと土地を守ってる人らしいんで、気にしなくてもいいよー」
そう言うユカリはそれを見えていないのか、その人と言って若干ズレた場所に掌を向けていた。
「何か言ってる?」
ユカリの問われ、ミヤコは首を横に振る。
「何も、見えるだけ、です」
音も匂いも気温の変化も無い。びっくりするくらい見えるだけ。
悪意すら感じないどころか、ユカリに向かってひらっと手を振って見せるくらいには友好的。
「あの、手を振ってます」
「あ、うんそうだよね。だってその人私のご先祖様の一人だから」
自分のご先祖が地縛霊っていいのかと、ミヤコが首をかしげると、地縛霊は問題無いとでも言うように手をぱたぱたと振って見せた。
どうやら意思疎通も普通にできるらしい。
悲惨な見た目の割にひょうきんな態度に、ミヤコもすっかり気が抜けてしまう。
「よしよし、ありがとうご先祖様。じゃあ次行ってみようか」
「え?」
次という事は、今の子の地縛霊との対面は予定されていたことだということ。
ミヤコは理解できない状況に、助けを求めるようにシオリを見る。
「うーん、多分だけど……今からこの会社のホラースポット巡りさせられるのかも」
真顔で言うシオリに、ユカリがまたもニヤリと笑った。
「当たらずしも遠からず。ミヤコ君の異能が感知できるものが何なのか、実践的に調べるんだよ。言ったでしょ? 今日は忙しいって」
そうして始まったクロスノックス社の七不思議ならぬ、七十七不思議巡りは、とんでもなく精神を疲弊させるものだった。
「真っ赤なボタンの柄の着物」はボタンが赤いのか、着物が赤いのか、それともボタン柄の着物が赤くなったのか?
じゅうくれの井戸より、やんぼし塚の方が好きな同士募集!
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本日の更新はここまで。
明日も一日一回異常の更新をmわps・・




