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52.東京という都

熊本を愛情持って破壊したい衝動に駆られて書いてます。

「異界返りの人が多いんだよ、うちの会社。異能持ち優遇して取ってるとね、どうしても見た目に影響出てる人も多くて。あ、この可愛いキャラメルちゃんは生粋の異界人? だよ。キャラメルちゃんってのはこっちの言葉に直した彼女の名前なんだけど、何だっけな、向こうの発音だとたふぇいりーぃ、みたいな音らしくてさ」


 キャラメルというのがたぶんあの兎の事だろうと分かったが、その後のユカリの言葉はミヤコの脳には入ってこなかった。

 ただ可愛いと言われて照れたように耳をピルピルと振って、鼻をひくひくさせる兎から目を離せない。


 受け答えも感情も、帆の人間と変わらない兎……異界って、凄い。ミヤコは生まれて初めて見た異界人に驚嘆していた。


 エントランスでの受付を経て、社内の一階部分は社外の人の出入りが自由あると話を聞き、それ以上はゲスト社内証が無いと上がる事はできないとユカリは話す。

 その理由としてユカリがあげたのが、異界返りの人が多いから、という事だった。


「ツカサさんが社長だからですか?」


 ミヤコやミクのように、ツカサが自分で保護しようとしてる人間たちなのかとミヤコが問えば、ユカリは違うよと笑う。


「流石に会社の人間までツカサちゃんの一存じゃ決めないって。それにね、親会社の方は社長は黒江の別の人間だよ。ここは異界対策や異能持ち専門の人材派遣会社、クロスノックスね。ツカサちゃんの会社は子会社の方でクロノス。因みにクロスノックスの本社はなんとあの魔都東京にあります」


「え!」


 魔都東京と聞いてミヤコは絶句する。


 日本の首都圏が神奈川になる今から三十年ほど前、首都圏は東京一帯と認識されていたという。

 しかし東京は大規模な異界の浸食により、世界の罅と言われる異界の浸食が常時起こり得る状態の場所になってしまい、首都機能を失ってしまった。

 そのため東京都にあった日本の首都機能を担う司法と立法の府は神奈川へと移され、日本の国主である天皇の御所も京都へと移されたとミヤコは歴史の授業で学んだ。


 そして、残された東京の機能は長い年月をかけゆっくりと移されていき、今では東京は田舎とは違う意味での過疎化が進んだ、日本で一番危険な場所とされていた。

 東京の危険さは諸説あるが、一般的な人間では東京外縁に住まうだけでも、国の年間交通事故死亡者数と同じ人数の死者がでるとかでないとか。


 そんな場所に本社があるのだという。


「あはははは、凄いでしょ? あんな陸の孤島に本社って。でもだからこそ異界専門人材派遣なんだよ」


 あっけらかんとしたようにユカリは言うが、今の東京は世界の罅がある。

 その場所で生活することが前提となる東京に、社員なんかいるのだろうか。


 シオリが話に加わろうと、ミヤコに視線を合わせ口を開いた。


「私の最終的な就職目標、クロスノックス本社なの」


 金色の目がきらりと輝く。シオリは表情こそ薄いが、声にも目にも本心が出る。

 ミヤコを誘うシオリの言葉は本心からのものに違いない。

 ミヤコと一緒に東京で働きたいと思っているのだ。


「で、でも危険……シオリさんが、危ないから」


 やめた方がいいのではないか、そう言おうとしてミヤコは言葉を飲み込む。

 危険なことは承知の上で、シオリは東京で働きたいと言っているのだ。


 世界の罅があり、今も日本や海外からの派遣人員が常に世界の罅や異界の浸食に対応してるとされる、魔都東京。

 その人員は一体どこから来るのか、ふっとミヤコの胸にそんな疑問がわいた。


 異界に対応するには、異界の力が必要なのだと、いつだったかミヤコは耳にした記憶があった。

 異界対応、異能専門の人材派遣会社、クロスノックス。

 会社の理念は、世界、異世界の双方からドアをノックし合い、争うのではなく互いの心の扉を開き受け入れあえる世界を目指す。と社内証の会社説明に書いてあった。


 ミヤコは自分の首にかかる社内証を見下ろす。東京に本社がある会社。

 多くの施設が移転され、多くの会社が撤退した元大都市。何十年もたった今は大半がただの危険な廃墟群だという。あまりにも危険すぎて一般人の立ち入りも、浮浪者の侵入もほぼ無いのだとか。

 東京外円と呼ばれる世界の罅から遠い所はまだインフラも生きていて、東京周辺に仕持つ人たちが住んでいるとも聞くが、好き好んでそこに住みたいと思うわでもないだろ

う。


 しかしクロスノックスはそこに仕事があるからこそ、そこに本社があるのだ。


「私ね、私の住む世界を守れる人になりたいんだよ」


 シオリが言う。


 ミヤコは言葉を無くして立ちすくむ。


 世界を守れる人になりたい。

 それは、ミヤコが一度も考えたことの無い目標だった。


「ミヤコ君も目指してみない? お給料いいらしいよ」


 少しおどけたようにユカリは言うが、ミヤコはそれに向き合って答えることができない。


「えっと……まだ、よく分からないので」


 答えられないと答えるミヤコに、シオリはそれでいいよと頷く。


「まあそうだよね。今日はゆっくりご飯食べよう」


「はい」


 答えるミヤコの胸には、言い表せないモヤモヤとした気持ちだけが残った。

東京はすでに破壊された後です。

ちなみに日本の首都は明確に決まってません。Google先生に聞いた。首都圏は東京一帯。


本日の更新はここまで。

明日も一日一回以上の更新を目指します。

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