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50.ツカサさんの怪しい会社

サトルさんは不憫。


 ツカサの会社の名前は「Cronus(クロノス)」、親会社は「Cross(クロス)Knocks.(ノックス)」といい、親会社の方についてはミヤコも耳にしたことのある会社だった。

 クロスノックスの大きな本社ビルの裏手に、何故か最上階がガラス張りの温室になっているクロノスの自社ビルがあった。


 世界に流入した異界の生物の研究も行っているため、どうしてもそれらを生育する設備が必要だったんだよね、とはツカサの言。

 ツカサはクロスノックスの方で仕事があるからと、ミヤコとは会社の駐車場で分かれた。

 今日の検査ではずっとユカリが付いていてくれるとのことだった。


 会社は七階建てで、ミヤコがユカリに案内されたのは二階にあった、まるで病院のような施設だった。


 そこで身長体重を測り、通常の視力検査や聴力検査を行った他、三階の別設備で味覚の検査と嗅覚の検査をした。

 かなり細かく数字を刻むような検査だったので、五感についての検査がとにかく時間がかかった。


 その後体調についての問診なども有り、会社に常駐しているという医者の前で下着姿になって傷の有無を見せたり、聴診器で肺や消化器などの音も聞かれた。

 医者も常駐しているからと、わざわざ採血もされた。採血の結果は明日以降になるとのことで、たぶん普通の検査じゃないんだろうなとミヤコは思った。

 さすがに病院にあるような本格的なレントゲンだったりは、クロノスの方には無いと言われたが、もしかしたらクロスノックスの方にはあるのかもしれない。


 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、はどれも一般的な人間よりも犬、猫に近い基準だと言われたが、犬の様に空気中に漂っている匂いは追う事が出来ず、猫の様に匂いの種類の嗅ぎ別けはできないようだと、専門家を名乗る青い髪の女性に言われた。

 要は基礎能力は低いが経験がほぼ無いので、能力としては伸びしろが有り、訓練と経験を重ねれば今よりももっと「犬猫の生存に必要なレベルに強化もできるし」「普通の人間の五感に近付ける事も可能」だとのこと。


 異能についてはやはり専門的に学ぶ学校に行くのがいいらしいので、シオリが受験をするという異能の訓練に特化した高校を受けようとミヤコは決心した。


 健康診断でミヤコが特に悲しかったのは、円形脱毛症が二カ所出来ているという診断結果が出た事だった。

 自分で思っていた以上に心身にダメージがあったらしい。


 もうすっかり昼時、十二時も過ぎた頃、ようやく健康診断が終わった。

 ユカリはミヤコを連れて七階へ向かう。


 七階はいくつかの部屋に分かれていて、それぞれが事務室や会議室なのだという。

 一番奥は一応ツカサの執務用の部屋となっているが、社長が出張るような社外との取引はほぼないし、ほとんどツカサは使わないと説明しながら、ユカリはその執務室、実質社長室へとミヤコを案内した。


 社長室には先客がいて、会議用の机と椅子が有り、そこにシオリが座っていた。


「お疲れ様ミヤコ君。どうだった?」


「健康診断だった」


 シオリの言葉にそのまま答えるミヤコ。

 シオリはまあそうだろうと頷き、ユカリはミヤコの横で噴出した。


「そうだよ、健康診断だもん」


 ケラケラと笑いながら、ユカリはミヤコの健康診断の結果が記された紙の束を振って見せる。


「これでまたいろいろ書類書いてね、虐待の証拠の一つにするんだよ」


「……証拠」


 今後ミヤコの処遇について叔父たちから何かを言われても対処できるように、証拠は積み重ねていくのだという。

 しかしシオリはそれは本当に証拠になるのかと問う。


「ミヤコ君回復力高いから、食べたら食べただけ健康になるタイプですよ。サトルさんみたいに自力で回復できないタイプじゃないです。証拠すぐに消えちゃいません?」


 食べただけで健康になるというのには、ミヤコ自身も心当たりがあり、車の中で考えていたことそのものだった。


「うん、でも身長も体重も平均よりだいぶん下の数字だしね、たぶんそれだけでも十分状況証拠にはなるんだよ。状況証拠を積み重ねて、現場を記録して、で、公的機関を納得させられるならそれでいいの」


 七年の間ずっと栄養が足りているとは言えない状態だったことを考えれば、身体の成長に問題が生じているのも仕方のない事。

 ミヤコの十四歳の平均よりもずっと小柄な体は、それだけで虐待の疑いとして人を納得させる材料にできるとユカリは言う。


「それにね、調べてみたけど今もミヤコ君って健康状態は栄養失調なのは変わらないんだよね。血とか薄いし、運動したら息切れするでしょ?」


 言われてミヤコはこくりと頷く。

 熊本に来てからそれほど運動をするわけではなかったが、それでも階段の上り下りで息が切れる事を実感していた。


「だからね、まだちょっと体力づくり頑張ろっか」


「はい」


 流されるまま、言われるがままにミヤコはこの数日過ごしている。

 目標も目的もあいまいなまま叔父の元を飛び出してきてしまったので仕方がない。

 それでも、こうして毎日少しずつ目標や目的を与えられ、ミヤコは自分がやらなくてはいけないこと考えるようになった。


 それはなんだか、とても嬉しい物だと感じた。

本日の更新はこれだけ。

明日は二回以上更新できるように頑張りたい。

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