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49.またしてもツカサさんの信用

「……なってる、かも知れません」


 ミヤコの返事にやっぱりかとユカリが声を高くする。


「だよねえ。うん、私たちの高校の同級生にさ、普段全然力があるように見えなくていっつも内臓を痛めてる子がいるんだけどね、その子時々こっちに治療に来ることがあって、その治療直後だと普段よりも力が強くなるんだって」


 治療をすると強くなる。そんなことがあるのだろうか。

 ミヤコは自分の身に置き換えて考えてみる。

 熊本に来てここ数日、衣食住が満たされているのを感じていた。


 そのために自分の身体がの調子がすこぶるいいとも思っていた。

 昨日のスイカの中からミクを探し出すのも、今までだったら炎天下の中でずっと音に集中している事なんてできなかったと思った。

 一時間ほどでミクを見つけられたのは、ここ数日の異能の調子の良さがあってだった。


「それって……ここには何か異能を強くする要因が?」


 ミヤコは恐る恐る尋ねる。

 異能の調子がいいのは問題無い。ノイズキャンセルのような、自分で選んで聞きたい情報の取捨を選択できることでもある。

 しかし異能が強くなるのはいただけない。今よりも見えてはいけないものが見えてしまうかもしれない、聞こえてはいけないものが聞こえてしまうかもしれない、物が触れる感触が痛みになってしまうかもしれない。


 それはとても恐ろしい事のように思えた。

 ただ熊本にいるだけで異能が強くなるというならば、ここには長居をしない方がいいのかもしれない。


 しかしミヤコの心配をよそに、ユカリはあははと笑ってそういうんじゃないよと返す。


「単純にこっちに来るとご飯毎食食べられるくらい健康になるってだけだよ。治療しないと慢性的に体調崩しちゃうのは、まあ本人の体質というか、異能の副次効果というか……異能の代償なのかな?」


 常に胃痛というのは嫌な副次効果だと、ミヤコは眉間にしわを寄せる。

 そしてそれによって食事がままならなくて、異能が衰えていたのだとしたら、なおさら嫌な効果である。


「あと強くなるって言うか、普段が弱ってるだけかなあ……」


「弱って……」


「生命力的な物持ってかれるって言ってたし。それで内臓壊しやすくなっちゃうんだって。ただでさえ気真面目過ぎてストレスフルなのにねえ。でもこっちだとその異能の代償を治療できるからさ、帰るまでにたくさん食べるんだよね」


 確かに飢餓状態なら弱ってても仕方ないだろう。

 そうなると今までのミヤコの状態も、本来の異能より弱っていたという事だ。

 ミヤコは自分の感覚に意識を向けてみる。

 叔父の家にいた頃よりも聞きたい物が聞こえ、見たい物が見え、食べる料理が美味しく、触れてくる人の手が暖かい。

 そこに余剰だと感じる物は意識して排除も出来ている。今も車の走行音は気にならずに会話が出来ている。


「たくさん、ご飯を食べる?」


「そうご飯。だからご飯はいっぱい食べようねえ」


 優しくささやくように言うユカリの声もはっきり聞こえる。

 そこには切実に、ミヤコを心配する気持ちがこもってるように聞こえた。


「……はい、沢山、食べます」


 決意を込めて頷くミヤコに、ツカサがくすくすと笑って言う。


「じゃあ美味しい物いっぱい用意しなきゃね。僕のお勧めのお店紹介するから、今度ツツジにでも言って食べに連れて行ってもらいな」


「あ、それは結構です」


 思わず食い気味に返したミヤコに、ツカサはすっと、とてもきれいな作り笑いを浮かべた。

 しまったとミヤコは口を押さえる。バックミラー越しに見えるツカサの顔は、笑顔なのにすごく悲しそうだった。


「ツカサちゃん……流石に前科からの次が早すぎるのはどうかと思うの」


 ユカリにまで言われて、ツカサは作り笑いから唇を尖らせた拗ねた表情へと変わる。」


「今度は本当に美味しいお店だもん」

本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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