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46.稀によくある

 ユカリの言葉にツツジは分かりましたと素直にうなずき、アセビも頷きを一つ返す。


 ミヤコとツカサはそんな三人のやり取りを気にせず話していた。

 いつの間にかツカサの膝の上にはミクがよじ登っている。


「ごめんね、もう切っちゃってるみたいだけど、スイカは検査した後でしか食べられないから、夕飯の後だねえ」


「夕飯の後だねえ」


 のほほんと告げるツカサに、ちょっとしょんぼりしてミクが返す。すぐに食べたかったらしい。

 しかし異能で繁殖させてしまったスイカなので、一応の検査は必要なのだとツカサは譲らない。

 たぶん大丈夫だと判断していたツバキたちの判断は信用していないようだ。


「夕飯の後にはいっぱい食べようね」


「いっぱい!」


 一人で人玉食べようと言わんばかりの気概で、ミクは拳を天井に着きあげる。

 とっさにツカサが避けなければ、見事なアッパーカットになっていたことだろう。


 とても無邪気な振る舞いには疲れている様子は微塵も感じられない。

 だが間違いなく超常的な現象を引き起こしたのはこのミクなのだ。

 ミヤコはツカサの膝の上のミクをまじまじと見遣る。ミクもミヤコの目をじっくりと覗き込んで、縦長の瞳孔の動きを堪能しては嬉しそうに笑う。


「……なんか、ミクちゃんの異能って……すごく、凄いですね」


 語彙力が死滅したような感想を溢し、ミヤコはちょっと恥ずかし気に目元を覆う。


「うーん、まあ、特殊条件のある異能だからねえ、毎回スイカとは限らないと思うけど、まあ熊本でスイカが異常繁殖するのは稀によくある事だから」


 稀なのかよくあるのか、それとも稀な出来事の中ではスイカの異常繁殖はよくある出来事という事なのか。

 ツカサの気の抜けたような説明に、ミヤコは首をかしげる。


「稀によくある……」


「よくある!」


 ミクの元気な同意に、ミヤコは庭をちらりと見て、小さく肩を震わせた。


「あるのかあ……熊本って怖いなあ」



 夕飯も食べ終わり、ミクも風呂に入れ寝かし付けたあと、ツカサは今日ミヤコが買い物を上手くできたかを聞いていた。

 ミヤコは自分では結局選べなかった事、それでもツツジが好きな色を勘案してミヤコに合うものを探してくれたこと、明日はそれらに自分で名前を書くようにとペンまで買ってもらったことを離した。

 淡々と起伏の少ない声と表情で語るミヤコだったが、いつもよりも多い口数が、それらをとても喜んでいるのだとツカサに教えた。


「そう、よかったねえ。じゃあ明日は会社に今日買った物持っていこっか。全部は無理だから小さい奴ばっかになっちゃうけどさ、それ空き時間に名前を書こう」


「はい」


「ふふ、じゃあ明日のために今日はもう寝ようねえ」


 明日ミヤコはツカサの会社に行くことになった。だから今日はもう寝ようとツカサは進める。

 ミヤコはそれに素直にしたがいリビングを出ていった。

 時間はもう十一時を過ぎていた。


 ミヤコが自室に帰ったのをツカサはわざわざ見送って、お疲れさまと声をかけてリビングに戻って来た。

 リビングに戻って開口一番が不合格宣言だった。


「ミクちゃんの暴走は稀によくあるのは知ってるけど、そういう時は早くに助けを呼んでね。今回はユカリに口止めしようとしたから不合格」

 

「……仕方ないだろ、あんたは」


 アセビが言い訳をしようとすると、ツカサはアセビにずいっと近付き灰色の目を覗き込む。


「怒る? 叱る? 呆れる? そういう反応をされると思った? でもね、言わないで隠そうとする方がもっと失望する。今回で何度目? 僕は何度君たちに期待して失望しなきゃいけないの?」


 アセビは言いかけた言葉を飲み込み俯く。


「何も言えない? それとも言わないの?」


 言わない。

 アセビはツカサから距離を取り、拒絶の態度を示す。


「以前もあったことだから、自分たちで対処できると思ったんだよ」


 言い訳のようにツツジが言うと、その横でサツキが首を横に振る。


「いや流石にこの量は無理だろ。遅かれ早かれ連絡する必要があったなら、早かった方がいい」


「分かってるよ」


 それきりツツジもむっつりと黙り込む。

 呆れているのか困っているのか、サツキはりりしい眉をなさけなく下げる。


「分かってないよね」


 作り笑いでツカサはツツジへと詰め寄る。


「ねえツツジ、君は自分が何でもできると思っているようだけど、そんなわけないよね? 実際できていなかったから今日みたいなことになったんだし。それで僕を失望させるの何回目? 僕は君達のために何度でも命を張ることはできるよ、でもね、期待をかけてやれるのには限度があるんだ。僕は君達の事をいつまで待てばいいの? 君たちは何時になったら一人前になれるの?」


 ねえ? と優しげな声でツカサはツツジに問うが、ツツジはそれに答えることはできなかった。

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