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44.ミクちゃんとスイカ5

「あー、やっとかよ……」


 ミヤコの指示で無事ミクがいると思しきスイカを見つけることができたものの、アセビはすっかり暑さにやられてばてていたようで、ミクの入りスイカを抱えるように座りこんでしまった。


 収穫されたミク入りだと思われるスイカは、重さこそ普通のスイカだったが、ミヤコが触ると僅かに震えることが分かった。

 間違いなくこれがミク入りだと皆が確信し、室内へと持ち込むと、ツバキが早速包丁を持ち出しアセビに渡した。

「こういうのは一番器用なアセビさんに」


 ツバキやコハナもそれに依存は無いようで、アセビは包丁をスイカへと当てた。


「よし、じゃあ、切るぞ」


 ヘタの部分に刃先をあてがい、中身を傷つけないように一度すっと表皮に傷をつけ、包丁を入れるガイドラインを作る。

 その瞬間、ガタリとスイカが大きく揺れた。

 アセビは慌てて包丁を引きスイカから離す。

 アセビの手にしていた包丁をコハナが素早く受け取り更にスイカから離す。


 示し合わせたのではないだろうがまるでこの後の展開を知っているかのような二人の行動にミヤコが目をやると、その間にバシュンと何か水っぽい物がはじける音がした。


 ミヤコがすぐに音のした方、スイカのあった場所に視線を戻せばスイカはものの見事に爆ぜ割れてアセビがスイカのまみれになっていた。

 そして爆ぜたスイカの残骸の上に、ミクが万歳をした姿で立っていた。


 ツバキが事前に用意していたタオルを恭しくアセビに渡す。アセビはそれを黙って受け取り、何とも言い難い不機嫌が滲む表情で顔を拭った。

 そのやり取りを見てミヤコは確信する。きっと不知火の時もそうだったのだろう。刃物を少しあてがっただけで果物は割れ、中からミクが出てきた。


 出てきたミクにツツジが腕を伸ばす。


「ミク!」


 ミクはすぐにツツジの腕の中に飛び込み、嬉しそうにうふふと笑うと、小さい手を背に回してぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「ミクちゃん良かったあ」


「何だ、意外と元気そう」


「良かった、元気そう」


 ツバキ、アセビ、コハナの順にミクの無事と、思いの外元気な様子に安堵する。


「うん、元気なんだ。何か嬉しいことあった?」


 ツバキの問いにミクは両手を上げ、今度はツバキに飛びつく。


「嬉しいことあった」


 ミクに飛びつかれたツバキは、嬉しそうなミクをぎゅう牛と抱きしめ、ミクもまた返すようにぎゅうぎゅうとツバキを抱きしめた。


「そう、良かったね」


「良かった」


 何があったのかは誰も分からなかったが、どうやらミクはもう殻に閉じこもるつもりはないようだ。

 それだけで十分と皆がほっとしていると、玄関が開く音をミヤコの耳が捉えた。


「誰か、来た」


 ミヤコの一言に、ツバキははっと自分のスカートのポケットからスマホを取り出し、着信を確認すると、メッセージアプリを立ち上げる。


「ユカリさんだ」


 ツバキがそういうのと同時に、勝手知ったる自分の言えとばかりにリビングに入ってきたのは、ユカリと非常にににこやかな顔をしたツカサだった。


「お疲れ様、ちゃんとミクちゃん見つけられたんだ?」


 ツカサは間違いなく笑顔でそう言っているのに、その笑顔があまりにも分かりやすい作り笑いだったので、ミヤコはなんだか嫌な予感がした。

 ツカサの弟たちを見やれば、揃って顔を引きつらせ、パクパクと口を閉じたり開いたり。


 ツカサはそんな弟たちの顔など見ていないかのように、室内に運び込まれた数十個のスイカを眺める。

 かなりの量があるが、さらにその何倍もの量が庭にまだ残っている。


「うーん、じゃあこのスイカはどうしよかあ」


 ツカサの言葉にアセビはビクッと肩を跳ね上げ、助けを求めるようにユカリを見やる。


「あの、一応、これは普通のスイカのはずで……姉さん、これ、食べられると思うけど」


 切って中身を確かめたが、間違いなくただのスイカだ。

 まだ口にしてはいないが、爆ぜ割れた分も含め匂いも見た目も問題はないとミヤコには感じられたので、アセビの言葉に何度も頷き同意を示す。

 張り子の虎のようなミヤコの動きに苦笑しながら、ユカリは半分に切ってあったスイカを見やり、これならいいかと笑う。


「ん、たぶん大丈夫だよ。前の時も問題なかったしね。一応検査してからにはなるけど、ミクちゃんの異能なら今回も大丈夫でしょ。あと庭を元に戻すための人も手配しとくね。何時頃がいいかな? まだ熟しきってないスイカもあるみたいだし、少しは残しておいて熟して収穫する?」


 ツカサはその間に庭を見るためにガラス戸に手をかけ身を乗り出していた。


「あー、かなりあるな。トラックも呼ぼう。じゃないとこれ全部運ぶの無理だよ」


 庭の半分を覆う緑の蔦に、すぐにスイカの数がまだまだある事を理解したようだ。

 ツカサはチラッとミヤコを見やり、作り笑いでは無い笑顔で尋ねる。


「ここに置いてく数はいくつがいい?」


「えっと……分からない、です」


 自分一人だったら人玉くらいは食べられそうだとミヤコは思ったが、しかし他の皆もそうとは限らない。

 スイカの数についてはコハナが代わりに答える。


「今収穫してる内の四個か五個置いててくれませんか? あーえっと、それ位ならまあ余らないようサツキさんが全部食べますよ」


 五つと聞いて、ツカサもそんなものかとミヤコたちを見回す。


「サツキならまあ、一人でも五個くらいいけるか。じゃあここには五個にしておこうか。暑い所に置きっぱなしだと破裂しちゃうし、早く移動させなきゃね。まだ収穫してない分は随時かな? そっちが余るようだったらそっちも引き取れるように準備しておこうか……販売はできないけど、家庭菜園の御裾分けなら喜んで引き受ける人も多いからねえ」


「いけるんだ……」


 スイカの処遇が決まったようで、ツカサはすぐにスマホを取り出し誰かと連絡を取り始めた。

 どこか楽し気に相手をからかう様子から、きっと電話の相手はマコトなのだろうとミヤコは思った。


「はい、じゃあ連絡付いたから、マコトがトラック持って来てくれる前に、今熟してるの残り収穫しちゃってね。黒い縞がハッキリしてるのが熟してるやつだから。縞が途中で途切れてたり薄くなってたら一日置いてまた明日収穫の方がいいかな。剪定鋏じゃなくて鉈とか包丁使ってもいいからちゃっちゃと収穫しちゃおうねえ。切るのは蔦の部分ね。実の部分はできるだけ傷付けないで、手でたたくくらいは良いけど落としたり投げたりは厳禁だよ。実が傷つくと気温高い時は中で発行しちゃって爆発するから。置くときは蔦の部分を上にして転がらないよう下にタオル敷いておこっか」


 そう言うツカサの右手は、いつの間にか日焼け防止の手袋を外し、人差し指の先端が刃物の形になっていた。

 かなり鋭利な鋏だ。

 というかツカサは何故かスイカの取り扱いに詳しいようだ。


「そういう使い方もできるんだ」


 ミヤコが感心して呟くと、ツカサはすごくうれしそうに笑った。その笑顔は年齢不詳のツカサにしては、やけに幼く見えてミヤコはちょっとだけ驚いた。

無事、スイカは爆発しました。

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