43.ミクちゃんとスイカ4
スイカを爆発させたい人生でした。
収穫したスイカが邪魔にならないよう、せっせと濡れタオルで拭いては室内に運び込むツバキ。
スイカ畑となった庭半分を三分割し、それぞれのエリアを決めて畑に立つツツジ、アセビ、コハナの三人。
それを横目にミヤコは大きく息を吸い、吐き出す。
目を瞑り、耳だけに神経を集中させる。
「準備できました。お願いします」
ミヤコの合図とともに、地面に置かれたままのスイカを、三人がそれぞれ軽快に叩いて行く。
やや中腰になりながらただ掌で地面に向けてスイカを叩く。
その音を聞き取るのはスイカ畑となった庭の端にたたずみミヤコ。
それぞれが二十個ほどを叩いたところで、アセビが少し心配そうにミヤコに問う。
「本当に聞こえてるか?」
「はい、大丈夫です」
そう答えるミヤコの顔は、ツツジに負けず劣らず真っ赤になっており、まるで水を被ったかのように激しい汗をかいていた。
スイカ畑の端には遮蔽物が無い。
ツツジは一度帽子か日傘を持ってこようかと提案したが、ミヤコは音を聞くことの妨げになるからと断った。
些細な物であっても面積のある柔軟な布地は音を吸収し、張りのある傘の布地は音を反射することをミヤコは経験で薄っすら理解していた。
雨の日のこもるような傘の内側の音が、下から聞こえる水を踏む音スラ反射していたからだ。
「気持ち悪くなったり頭が痛くなるようならすぐにやめてね」
アセビにつられるようにミヤコを見たコハナも、慌ててミヤコに駆け寄る。
「っ問題ないです」
しかしミヤコはアセビやコハナの心配を、必要ないと首を振って退ける。
どう考えでも問題が無いようには見えなかったが、頑ななミヤコはアセビに腕を取られてもその場を動こうとしなかった。
ツツジはそんなミヤコを見て、諦めたように息を吐く。
代わりにせっせとスイカを拭いていたツバキに声をかける。
「ツバキ! 終わったらすぐ飲めるように経口補水液用意しておいて。あ、そこのスイカ使ってジュースでもいいから」
「はーい、すぐに作るね」
半分に切ったスイカは間違いなくただのスカだからと、ツツジは指示を出す。
ツバキが半分に切ったスイカを持ってキッチンに向かうのを見送って、ツバキはアセビとコハナに言う。
「ミヤコ君がそうしたいのなら、やるしかないんじゃないかな? 急いでミクちゃん見つけよう」
ツツジの言葉に二人は納得しかねる様子ではあったが、ここで時間を無為にするよりもいいと判断し、スイカを叩く作業へと戻った。
三人でさらに五個ずつ程叩いた時、ミヤコが叫んだ。
「あ! アセビさん今の」
ぽんと叩かれたスイカの音は、不思議な反響をしていた。
確かに実の詰まったスイカの音がするというのに、何故かそこにボワンと空洞に響くような音が重なっていた。
明らかに今までのスイカと違うそれに、ミヤコはそこにミクがいると確信した。
「これか?」
アセビの周囲には少し密集してスイカが有ったので、アセビは多少破れかぶれに叩いていた。その為自分が叩いたのがどのスイカか分からず、適当にポンと横にあったスイカを叩く。
「じゃなくてもう一つ右の」
「こっちか」
「それです!」
それがミクの入ったスイカだと、ミヤコは高らかに宣言する。
アセビが叩いたからか、それともかくれんぼで見つけてもらったのがうれしかったのか、そのスイカは少しだけ揺れたような気がした。
本日のスイカはここまで。
明日以降も一日一スイカ異常を目指していきたいと思いまスイカ。
その内スイカの絵を描いて挿絵にしかねないほど脳みそがスイカスイカしてまスイカ。