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41.ミクちゃんとスイカ2

 ツバキがユカリに連絡を取るため少し離れてスマホを取り出していると、キッチンの方からコハナが来た。

 どうやらキッチン側には通用口があるようで、買い物帰りのコハナは大量の食料品を段ボールに入れた状態で持っていた。


「どうしたんです? みんな揃って庭を見て」


 キッチンカウンターに段ボールを置くと、コハナもつられるように庭を覗いて驚きの声を上げる。


「うわ、もしかして、これスイカ? ねえミクちゃんは?」


 コハナのその一言で、ミクの姿が見えないことにミヤコは気が付く。

 スイカの蔦の端を握ってスイカ畑となった庭を見て回っていたツツジにも、コハナの声は聞こえていたらしく、蔦の端を掴んだままリビングの傍へと戻って来た。


「ああそう、これのどこかにミクちゃんがいるから、助け出さないと!」


 これ、と言ってツツジが持ち上げたのは、一抱えもある大きなスイカ。


 スイカを見て頭を抱えるツバキとコハナ。アセビは庭に出るためかリビングから出ていってしまった。


「何でこれのどこかにミクちゃんがいるんですか?」


 一人自体を理解できていないと感じ、ミヤコは尋ねる。


「ミクちゃん今日は健康診断に行かなきゃいけない日で……そこですごく嫌なことがあって、それで自分の殻に閉じこもっちゃってね」


 答えたのはツバキ。しかしその内容はミクの行動理由であって、なぜこのような現象が起きているのかでは無かった。


「殻に閉じこもるとスイカになるんですか?」


 続けて問えば、もごもごとツバキは口ごもる。


「ミクちゃんスイカ好きだからねえ」


 代わりにコハナが答えにならない答えを返す。


「殻に閉じこもるって言うレベルじゃないだろうけどね」


 玄関からサンダルを履いて回って来たのだろうアセビが、呆れたように肩をすくめる。

 アセビの手には何故か二本の小枝切り鋏が握られていた。


「もう言った方が早いよ。見ちゃったんだから」


 アセビの言葉にツツジも仕方ないねと肩を落とす。

 どうやら話すかどうかを迷っていたらしい。

 ツバキたちが視線を交わして小さく頷く。


 誤魔化しを止めツバキが簡単に説明をする。


「ミクちゃんの異能……植物を増殖させたり、植物と同化したりっていう異能なんだよ。桃太郎とか瓜子姫っていう童話知ってる? その童話の元となったと考えらえてる異能で、俗称『瓜子姫権能』って言われるやつ」


 ミヤコは頷く。

 日本昔話どころか、民話や説話の簡単な解説を読んだことが有ったので、ツバキの説明はすんなりと納得できた。


 つまり桃太郎のように、ツツジの持ち上げたスイカの中にミクがいるかもしれないという事らしい。


「ちょっと凄い身体能力とか、珍しいだけで済むような力じゃなくてね、だからミヤコ君もここで見たことは他言無用でお願い」


「分かりました……けど、権能?」


「異能よりも古代魔法と科魔術の類に分類されてる能力。異能って実は近代異能と古代異能があるんだよ。異能専門で教える学校行けばそういうのも学べる」


 それもまたミヤコの知る話と同じだった。

 大昔のまだ日本にも魔法と呼ばれる技術が残っていた頃、その魔法を体現したような異能を持った人間がいたという話。

 それは日本の自然信仰と相まって、神の使いや化身と呼ばれることもあったという。


 インド神話等にも多く見られる、人の信仰により神が一時的に人の身に生まれ変わって、人の世にある災厄を滅する、そんな話もあった。

 そう言った異能の中でも神がかり的な異能を持った人間は、まともな人生を歩むことはないだろうことも察することが出来た。


 特に隠された話ではないが、だからと言って人に喧伝しミクを奇異の目にさらすつもりはない。

 他言無用はミヤコも納得のいくところだった。


 納得がいったところで、ミヤコは庭を眺めやる。


「……これ全部割るんですか?」


 庭の半分ほどを覆う濃い緑の蔦の間から、数十のスイカが覗いていた。

 もしかしたら百個くらいあるんじゃないだろうか? そう思ったが、ミヤコはぐっと言葉を飲み込んだ。


「まあ割らなきゃねえ……」


 頭を抱えたままツバキが言う。

 百個近いスイカを全部収穫して切るのは絶対に大変だし、できたスイカの実の処分は相当に面倒だと思われた。


「大きさで分からないんでしょうか?」


 せめてどのスイカにミクが入っているか分かれば、残ったスイカの処分が楽になるのではと思いミヤコは問う。

 しかし大きさではわからないとツバキは首を振る。


「分からないんだよねえ、これが。拳サイズの果物でも何故かミクちゃんが入ってるんだよ。切り分けるとぽんと生まれてくる」


「もしかして以前も?」


 ツバキの言い方は明らかに以前も同じようなことがあったと分かる言い方で、問えばツバキの代りにツツジが苦笑で答えた。


「前は不知火だったよね」


 不知火は柑橘の果物の名前だ。とりわけ形が良く決められた基準を満たした不知火を「デコポン」という名前で売り出しているのだが、それをミヤコは知らない。

 多分何か植物の名前だろうとだけ思っている。


「あれは木が大きくならずに済んでよかったよ。実の数も少なかったし」


 ツバキが続けながら、庭の一角を見やる。

 そこにはちょっと大き目な柑橘類っぽい木が一本。たぶんそれが以前ミクが異能を発揮した時の木なのだろう。


 木は大きくはあったがそこに実る果実の総量はきっと今目の前のスイカよりは少ないと思えた。

本日の更新はここまで。

明日もまだまだスイカです。

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