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37.ミヤコ君と色とりどりのジャム

作中に食べ物出てきたら高確率で何かお勧めしたい物が紛れてます。

 ミヤコがリビングに行くと、朝のニュース番組が流れていた。

 どうやら深夜、日付が変わって今日の未明に繁華街で爆発が起きたのだとか。


 飲食店の入っていたビルで充電器につなぎっぱなしだったスマホが発火し、火災となり、それが上階にあった飲食店の倉庫に放置されていた、古い卓上コンロ用に使われるガスボンベに引火したのだとか。

 流行や地元食材を推してチーズトマト鍋だのなんだのと提供していた飲食店の倉庫には、昨年の冬に使いきれていなかった古い固形燃料などもあったせいで、急激に温度が上昇してしまったのだろうと、専門家は言っているらしい。


 しかも不幸なことに隣室はイベント用のペーパーの配布物やプラスチック製品が詰め込まれている、これまた倉庫として使われていた部屋だったそうで、そこで作業をしていた従業員が三人ほど亡くなったという。

 遺体の損壊が酷く死因は不明だが、入り口などには向かっていた形跡が無かったので、急激な酸素欠乏による窒息が考えられるのだとか。


 深夜帯の事故という事もあって巨大な破裂音がしたものの、目撃者はほぼなく、ビルとビルの間に煙が立つのを見たという証言ばかりなのだとか。


 ミヤコは痛ましい事故を語るニュースキャスターの表情に、一抹の胡散臭さを感じつつも、ただ物騒だなという感想だけを持った。


 ニュースは流しっぱなしで、誰もそれを見ていない。

 毎朝朝食はダイニングでとツバキに言われてきたはずなのに、ダイニングに続くリビングにはツツジの姿のみ。


 ツツジはミヤコの姿を目に留めると、朗らかにおはようとあいさつをする。

 朝一番の挨拶がおはようだったのはここ数年なかった事なので、ミヤコはすこし緊張しておはようと返す。


 ツバキはどうやらミクを起こしに行っていたようで、少ししてからまだパジャマ姿のミクを連れて来た。着替えは食事が終わってかららしい。


 朝食はサラダとオムレツとインスタントのコーンポタージュと、食パンのトーストとトースターで温められたテーブルロールがツバキの手によってエンドレスで出てくるわんこそば方式だった。


 食べたら食べた分だけ皿に焼き立てのトーストが置かれる。

 ジャムの瓶は七種類。輸入物のジャムもあるようで、見たことも無いリンゴンベリーのジャムやルバーブジンジャーと書かれたジャムまである。


 見たことも聞いたことも無いジャムに恐々として、ミヤコはイチゴジャムだけをひたすら食べ続ける。


「ミヤコ君って保守的なのね」


 新たに食パンを切り分けトースターにセットしながらツバキが不思議そうに言うと、ツツジが自分が開けたばかりのジャムをミヤコに差し出す。


「これ美味しいよ、晩白柚のジャム。柑橘特有のさっぱり感があるのに、匂いが甘くて柔らかいんだ。どうぞー」


「どうぞー」


 ツツジの真似をしてか、ミクはデコポンと書かれた柑橘類らしいジャムを差し出してくる。


 いちごジャムでトースト三枚目を食べたところだったので、ミヤコはどうしたものかとジャムと空になった皿を交互に見やる。


「次焼けるまでちょっと待ってね。ちなみに私のお勧めはゆずのママレードと、チョコスプレッドを半々に塗って食べるの」


 おかわりを要求してもいいのか迷っているミヤコに、ツバキは問題ないと二つのトースターを駆使してパンを焼いていく。

 ミクは中にマーガリンが入ったテーブルロールが好きらしいので、そちらはほぼミクが独り占めして食べている。幼いのになかなかの健啖家だ。


 お勧めされたジャムの瓶は、ミヤコにとってとてもキラキラして見えた。


 知らない柑橘のジャムはどれも美味しかったので、ミヤコはまた食べたいなと思った。

 また、と望んでもきっと許される。ミヤコはそれが嬉しくて僅かに口の端を緩めた。


「今日は全員そろってないから楽だよ」


 最後の職パンを齧りながらツバキが溢す。


「あの、どうしていないんですか?」


 コハナは通いだと聞いていたのでまだわかるが、サツキとアセビはこの家の住人のはずだ。


「アセビは昨晩忙しかったらしくてね、まだ寝てるんだ。ツツジは職場で何かあったらしくて朝早くから出かけていったよ」


 アセビとサツキがいないのはイレギュラーな事らしい。

 ミヤコは昨日よりも少しだけ静かな食卓に安堵の息を吐く。


 人が少ないのはミヤコにとっては救いだった。

 あまり詮索をされたくない。自分の事を語るのは苦手だ。

 その点ツカサやシオリはミヤコの好悪については聞くことはあっても、それほどミヤコの境遇を言葉で聞くことはなかった。

 ただその振る舞いを見て、ミヤコの身に起こっているだろうことを推察していた。


 言わなくてはいけないけれど、言いたくないことも、ツカサたちならば察してくれた。

 それがあまりにも楽だったのだと、黒江家の兄弟たちと話していて気が付いた。


 だからこそ、ツツジ達との会話はまだ苦しかった。


 何よりミヤコはまだ秘密にしていることがある。

 自分の異能がどういった物か。


 ツカサやユカリが伝えていないとは思わないが、それでも壁越しの会話が聞こえるほどだとはきっと思っていない。

 そうでなければ昨日あんなにも迂闊な会話をしていたはずがない。


 他人のプライバシーをあっさりと侵害できてしまうミヤコの異能を、もしこの人たちが気持ち悪い、嫌な異能だと思いミヤコを邪険にするようになったら……。


 ミヤコはTシャツの胸元を強く握りしめる。


 まだ、この人たちがどんな人たちなのか判然としない内は、自分の異能については話せないと、ミヤコは黙ってうつむいた。

作中の柑橘類のジャムは、福田農園のジャム。

熊本名産の晩白柚やデコポンのジャムが美味しいです。

熊本城城下、桜馬場城彩苑にて、福田農場のジャム他、色んな柑橘類の製品が売っているので、ぜひ覗いてみてください。

特にソフトクリームは絶品だから!ソフトクリームは絶品だから!ソフトクリームは絶品だから!

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