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36.ツカサさんの深夜のお仕事2

「何がある?」


 己の嫌悪する力を使ってでもツカサに制裁を科すという事は、シオリにとってミヤコが重要な存在であるという事。

 一体何があってこの短期間の内にシオリがミヤコをそれほどまでに思うようになったというのか。


「何も……気に入られただけじゃない?」


「そんなわけがあるか、あのシオリさんだぞ?」


 ツカサは笑って誤魔化そうするがマコトは納得しない。

 ツカサは右手の壁を見ながら、どうやってマコトを黙らせようかと思案する。


「まああのシオリさんだもんね、そうおもっちゃうよね、ええええええ!」


 ツカサの声を遮るような爆発音と激しい振動。

 それは壁を隔てて隣の部屋から聞こえて来た。


「ああもう邪魔! やっぱ直接やっちゃおう! あいつらきっと何か余計なことしてるもんこれ絶対!」


 ツカサはもう限界だと、右の脚で壁を蹴りつけた。

 とたん壁は崩れ、その向こうの部屋には大きなイノシシが見えた。

 イノシシの足下はイノシシに蹂躙されて尽くしたボロボロの死体。


「間に合わなかったの? 嘘でしょ何でそんな無茶するんだよ! 数日かけて罅広げて異界流入させる気じゃなかったわけ? って言うかさっきからの騒音そういう事? てっきり封鎖されてる場所こじ開けようとしてるんだと思ってた」


 牛よりも背のある巨大なイノシシだった。どう考えても人が一人出入りする程度の入り口と見合っていない大きさだ。


「本当馬鹿なことしたよね彼ら。わざと世界の罅広げるなんてさ、今時そんなバカする奴がいるなんて思わなかった。身の程知らないよね! そのせいでみんな死んじゃった! 本当バカバカバカ! っていうか罅広げるの阻止間に合わなかった僕も馬鹿! 時間読み間違い? 違うよね、これたぶんうっかりどっかから情報漏れたんだ! だから強硬手段ってことだよね! ああもう! 会社の中洗い直しとか面倒極まりないったら!」


 イノシシから距離を取ろうと部屋の端へと足を向けるツカサ。

 癇癪を起したよう叫ぶツカサにイノシシは突進をしてきた。

 壁に空いた穴はイノシシが通れるほどの物では無かったが、それを牙を使い無理やりにこじ開けていく。

 壁の中には金属の骨組みなどもあったはずなのだが、見事にへし曲げねじ切っている。


「とっとと片づけるぞ」


 言うよりも早くマコトはドウタヌキを鞘から抜き出す。


 大きく振りかぶった牙が壁を穿ち、イノシシが壁を突き破る。

 数度床を掻いたと思ったら、イノシシは弾かれるように飛び出していた。


 居合をするにはイノシシの動きが早すぎる。であれば真正面から受けるようにした方がいいと、マコトはツカサの前へと躍り出ると、ツカサを無理やり蹴り飛ばして退けた。


「まったく社長なのにね僕。何で下っ端みたいに最前線で床転がってるんだか」


 床を転がりイノシシの動線から外れたツカサは、腹立たし気にぼやくと、真っ黒な右腕を投げ出すように振りかぶった。


 イノシシは方向転換をすることも無くそのままマコトへと突進を仕掛け、構えられたドウタヌキの刃にぶつかる直前に真っ黒な網に絡められた。

 いつの間にか天井から床まで伸びる真っ黒な網が張られていた。


「それを言うなら副社長の俺はどうなる」


 黒い網に引っかかったイノシシは、意志を持って絡みつくような網を振りほどこうと首を大きくそらせる。

 まるで硬質なゴムのようにミチミチと音を立てながら網がゆっくり千切れていく。このままでは網が千切れイノシシが自由になるのも時間の問題だろう。

 イノシシの首がここぞとばかりに大きくのけぞったその瞬間、マコトはドウタヌキをイノシシの首の下から振り上げ切り裂いた。

 バスほどの大きさの巨大馬の骨を断ち切った刀は、あっさりとイノシシの首を落とし、天井に大きな亀裂を作った。


 イノシシの身体が崩れるように倒れると、イノシシの突進を防いだ黒い網が、空気に溶けるように消え去った。


「マコトは僕専用の囮だもの。もっと活躍してねえ?」


「ふざけろクソ野郎」


 ツカサの嘲笑とマコトの悪口の背後で、スマホのバッテリーが爆発し、上がった炎が段ボールへと燃え移る。

 ツカサはそれを見やると、大きくため息を吐いた。


「あーもう、馬鹿な奴らのせいで後始末が余計大変になるじゃん」


「回収班を呼ぶしかないな。とりあえずその異界産だろうイノシシはお前の影で包んで運べ」


 壁の向こうのボロボロになった遺体よりも、巨大な異界産のイノシシの方が情報として大事だとマコトは言う。

 死んだ人間にはちらとも視線を向けることはない。


「あー最悪、僕社長なのに本当にこれじゃ下っ端のなんでも屋じゃんかー」

本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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