314.ミヤコ君と井戸と幽霊事情
その昔、日本には魔法があった。
それは東西南北に守りを配した都市計画だったり、湧き出でる水を敬う宗教施設で会ったり様々だった。
しかしその魔法次第に失われていった。
魔法に使われていた世界の内からこぼれ出てくる力が枯渇していったから。
それでも、完全に干上がったわけではなく、まだわずかに湧き続ける場所はあったのだ。
それを利用し、時の権力者たちは僅かな魔法を使い続けた。
それは何も力が欲しかったからではない。
ただ守りたかったから。
「その魔法で作られた、護国の城が熊本城。このお城がうち滅ぼされるときは……国に未曽有の混乱がもたらされるだろうって言うね」
そう言う伝説があるんだよと締めくくるツカサ。
素直に凄いなーと感心するミヤコ。
「そんなすごい所だったんですね……あ、幽霊、減ってる」
気が付けば、幽霊たちはぐんと数を減らしていた。
少なくともいかにもな時代劇に出てきそうな、一切洋装の要素が無い人たちはいなくなっている。
ちらほら残るのは、和装の中に洋装が混じっている者か軍服の人間が十人ちょっと。
「完全にいなくなってはいないんだ?」
「はい、少しだけ。あの、軍服の数人と、あと現代よりちょっと前くらいの人?」
「あー、もしかして人員整理してくれたのかな? ありがとうございます」
先ほどの銃を撃ち鳴らした幽霊の行動は、他の幽霊を蹴散らすための物だったのだろうと考え、ツカサがぺこりとお辞儀をすれば、全く明後日の方向ではあったが、それを見た銃を撃った軍人が苦笑してお辞儀を返した。
「軍服の人がお辞儀しました」
やっぱりコミュニケーションを取ってくれる、優しい幽霊だ。
ただ、どうしてここの幽霊やエーデルは喋らないのだろうかとミヤコは不思議に思った。
いや、ここまで喋った幽霊を見ないとなると、唯一喋っていたクロスノックスの幽霊の方が特異だったのかもしれない。
ミヤコの顔に薄く笑みが浮かぶのを確認して、シオリが顔を覗き込みながら訪ねる。
「ミヤコ君もう大丈夫そう?」
「うん、もう、大丈夫……」
しっかりと科を上げて答えるミヤコに、シオリの表情の薄い顔が僅かに緩んだ。
「何か、人じゃない人がいっぱいだと、感覚が混乱する感じがあったけど、今は平気」
人じゃないのにそこにいる幽霊たち。
匂いも無く音こそ聞こえないが、生きている人間以上に存在感があり、妙に肌寒く感じる。
本来の五感に訴える感覚とは違うそれらに、ミヤコは自分が酷く混乱していたのだと今になって気が付く。
蝉時雨の時点で相当参っていたのだが、まさかさらに自分の五感を苦痛に感じる事になるとは思ってもみなかった。
「幽霊が見えるってのも大変なんだねえ」
「ツカサちゃん、言い方が雑」
まるきり他人事な言い方をするツカサの脇を、ユカリがちょっと強めに肘打ちする。
別に大変だというのは本当なので、ミヤコは大丈夫ですよと適当に流しておく。
幽霊の事もひと段落付いたことだしと、ミヤコたちは目的のエーデルの本体探しを再開することに。
歩きながら、ふっと思ったことをカンナが口にする。
「そう言えばエモトは? エーデルさんと意志疎通はできないんですか?」
それに応えるのはユカリ。
「異世界の幽霊は流石に言葉と文化が違いすぎて、ジェスチャーでも無理だったってさ。一応こっちの知識も多少はあるっぽいんだけど、現代よりもずいぶん知識が古いって」
すでにもうエモトには確認を取っていたらしい。
見える人間だからと言って、やはり異界人とのコミュニケーションは難しいのだなとミヤコが考えていると、もう一つ思い出したことがあるとツカサが言う。
「あ、そう言えばさ、聖女エーデルって僕のこと見えてなかったかもしれないんだって。でもシオリさんはかなりはっきり認識してたんでしょ?」
「あ、そう言えばそうかも」
ツカサに言われてミヤコも思い出す。
そう言えばクロスノックスの幽霊もツカサのことが見えていなかった。
ならばツカサの体を突き抜けてミヤコを覗き込んできていた幽霊も、実はツカサを認識していないだけだったのかもしれない。
しかしそうなると、ツカサだけ何故と言う疑問もわいてくる。
生身の人間にも認識されにくい事と何か関係があるのだろうか。
しかしそうなると異能と括られているが本来は魔法を使っているというシオリとサトルが認識されるのも不思議だったが、幽霊がどのように世界を見ているのかはわからない。
二人もまた一般の人間には認識されにくいらしいのだ。
幽霊たちが何を考えているのだろうかと疑問に思い、周辺の幽霊の幽霊の様子を確認するミヤコ。
そんなミヤコの視界に、手招きをする軍服姿の幽霊が見えた。
本日の更新もこれだけ。
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