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26.ミヤコ君の聞き耳

熊本の名産品畳表の原料、井草!

畳表のような敷物→茣蓙ござ

室外で使う物と思われがちですが、室内でカーペット替わりでも結構いいですよ。

吸湿、消臭、冷え対策、何よりペットに安全。

 案内されたのは確かに屋敷の端。凹のを引き延ばしたような形の建屋の左奥。

 しかしこれは奥座敷というのではないかと思われる位置。手入れされた日本庭園風の中庭の端に面した部屋。

 この部屋もしっかりと改装済で極々一般的な洋間の扉が付いていた。

 案内をしてくれたツバキが扉を開けて中の様子を都に見せる。


「ここがミヤコ君に使ってもらうつもりのお部屋だけど、大丈夫かな?」


「広すぎる……」


 ミヤコは茫然と呟く。

 机と椅子と敷布団しかなかったミヤコの住んでいたコンテナハウスの四倍以上ありそうな部屋だった。

 家具はベッドサイドチェストと机と椅子と空の本棚と何故か壁掛けのテレビとビューローとローテーブルと横に長いソファが置かれている。ローテーブルとソファの足元には畳表のような敷物。

 ワンルームのマンションの広告のようにお洒落な、ベージュやアイボリーで温かみを持たせつつも個人の趣味を反映させていない雰囲気だ。


「落ち着かない?」


 くすっと笑ってユカリが問う。

 保護してもらってろくでもない親類からも引き離してもらっておいてなんだが、ミヤコは我儘を言いたくなった。それは今まで我慢を我慢と思わずにいたほど、あらゆる理不尽を耐え忍んできたミヤコには珍しい事だった。


「あの……もっと、物置みたいなとこでも、いいです」


 ミヤコがそう言うと、思わずと言ったようにツバキが大きな声を上げた。


「よくないよ。法律的にアウトだよ」


 ビクリと肩を跳ね上げ固まるミヤコに、ツバキはしまったと口元を押さえた。


「あ、ごめ……ごめんねミヤコ君。びっくりさせちゃって」


 ミヤコは声を出さぬまま首を横に振る。

 大きく開いた瞳は瞳孔が大きく開き警戒のためかミヤコの毛は逆立っていた。


 少しの無言の後、ユカリがミヤコに言い聞かせるように説明する。

 その間にミヤコの逆立った毛はゆっくりと落ち着いてきた。


「そうだよ。ミヤコ君が今まで住んでたコンテナハウスは、法律的にアウト。断熱材も無ければ衛生を担保できる設備もない。あれは人間が居住していい建物じゃない」


 ユカリの説明にミヤコは確かに済むには不都合の多い場所だったと頷く。


「そう……なんですね」


「そうなのよ、はい、だから今日からミヤコ君はここに住んで、普通の感覚取り戻そう!」




 普通の感覚を取り戻そうとユカリに言われ、ユカリとツバキはいったんリビングへと帰って行ったが、その途中小声でやりとする声がミヤコには聞こえていた。


「虐待されていたんですよね?」


「そう、親戚の家でね。行政は手を出さなかったみたいだけど、幸いにして周囲の大人が口を挟めないまでも手出しはしてたらしくてね、一番悲惨な状態にはなってなかったけど……」


「暴力は無かった、んですかね?」


「どうだろう? 上から手を出すと目を瞑る動作をするから、叩かれるくらいはあると思う。あと大きな声も苦手なんじゃないかな? シオリさんに見てもらったからすぐにわかると思うけど」


 自分の話だと分かって、ついミヤコは聞き耳を立てる。

 部屋から離れていくと扉越しでは流石に聞き取り辛いので、二人が廊下の先を曲がったことを確認して扉を開けた。

 それがあまり好ましい事ではないと分かっているが、自分に対しての言葉は聞き逃すと叔父たちからの暴言や暴力に繋がる事もあった。そのためつい警戒してしまうのだ。


「ミクちゃんにはすぐに面会をさせますか?」


「うん、境遇的にはちょうっと違うけど、多分相性は悪くないかな」


「相性ですか……」


 ミクちゃんと言うのが黒江家で預かっているもう一人なのだろう。

 ミヤコは静かに息を殺して二人の会話を聞き続ける。


「大丈夫。ミヤコ君はミクちゃんと違って最初から会話ができるみたいだし」


「わかりました。では、できる限りフォローしながら、夕食の時にでも」


「うん、お願い」


 ミクは会話ができない。虐待児の話をしている流れで出てくるとどうにも不穏でしかのないその状態に、ミヤコは眉間に皺を寄せる。

 ミヤコは人と会話をすることは苦手だ。だが人の言葉を聞き続けてきたからわかる。会話ができない子供の異常性を。


 自分以外の誰かとのコミュニケーションの重要な要素、観察、傾聴、応答。相互にこれらのどれが欠けても人はコミュニケーションを失敗する。かけていると分かっていてコミュニケーションをとっている人間の方が少数だ。

 では常態的にそれが欠けてしまった子供は、コミュニケーション能力をどうして失わざる得なかったのか。

 自分に関係が無いのなら聞くべきではないとミヤコは聞き耳を立てるのを止めようとしたが、ユカリとツバキの会話はまだ続いていた。


「あ、大事なこと忘れてた。ミヤコ君は疑問に思ったことを他人に質問しないタイプの子かもしれない。シオリさんにはある程度心開いたというか、同年代の女の子だからか怯えた様子が無いんだけど、大人相手にはあんまり質問らしい質問はしないから、分からない話をそのまま流しちゃうかもしれないんだよね。その場限りとか流石に聞いておかないと今後に差し障るって本人が自覚してることは聞いてくれるけど、でもできれば大事な話は繰り返し耳に入れてあげて。あと目線も出来れば合わせない方がいいかもしれない。怯えてる様子がまだあるってシオリさんが。シオリさんと二人きりの時よりもツカサちゃんが一緒にいる方が喋らないらしい」


 また話の中心が自分に戻ったので、ため息を吐きつつミヤコは話に耳を傾ける。

 ミヤコとしてはシオリに観察されているとは思ってもいなかった。

 シオリはあまりミヤコと視線を合わせる事は無かった。しかしとりとめのない会話の中でも、ミヤコからの質問に応答する時や自分の質問の答えを聞くときは、ふっと視線を合わせる様子もあった。

 ツカサのようにじっと見つめてくることも無かったので、それが楽に感じていたのは確かだ。


「そうなんですね、分かりました。あまり過干渉にならないように気を付けます」


「えっと、これくらいかな。ごめんねちょっと大変かもしれないけど、ミヤコ君の事大事にしてあげて……それじゃあ、今度こそ帰るね」


 ここまで過保護にされると面はゆいを通り越して申し訳なく感じてくるのだが、ユカリはツバキにしっかりとミヤコの事を託した。

 ユカリはそのまま帰るらしく、玄関を出る音が聞こえた。

茣蓙って令和を生きる皆様は知ってるだろうか?

畳よりも使い勝手が良いので個人的にとても好きなのですが。


本日の更新はこれだけ。

ただ今熊本豪雨に見舞われています。

明日の更新は未定。

多分大丈夫だとは思います。


熊本にお住いの皆様、どうかご無事で。

それこそ不要不急の外出はできるだけ控えて、室内で安全に嵐が過ぎるのを待っててほしいです。

命大事。

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