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24.いざ黒江家へ

 午後六時。七月の九州では夕方というにはまだまだ明るい時間帯。出かけていたユカリが帰って来たので留守番は終わりとシオリは家に帰り、ミヤコの方も今日から世話になる黒江家へと向かう事に。

 拠点に連れてこられるときに乗っていたのとは違う車でほんの十分もかからず目的に到着した。


 車から降りずともわかる。豪邸だ。

 それも純和風建築だ。

 敷地を囲う白くて瓦の付いた塀は何処までも続いて見える。中学校の体育館の敷地より広いかも知れないとミヤコは思った。

 駐車場が複数あるらしく、その和風建築の向かいに黒江家の名前の付いた月極駐車場のような場所があった。

 車を止められる数は十台以上。それほどの来客があると想定されている家なのだろう。

 広い駐車場には三台の車が無造作に置かれている。その横にツカサは乗って来た車を止めた。


 ミヤコは車から降りたくないなあと胸の内で呟く。

 不安が顔に出ていたのか、それともただひたすら無言で微動だにしないミヤコを心配してか、ツカサが大丈夫だよと柔らかく笑って声をかける。


「躾はしてるけどね、もし何か嫌な事言われたりされたりしたらいつでも僕に言ってね? あいつらをどうこうする権利くらいなら持ってるからさ。ミヤコ君が望むのなら地獄を見せてやってもいい」


 車を降りる際にツカサがとんでもない事を言いだした。

 少し意地の悪そうなニヤけた口元を見るに、どうやらからかい半分の言葉の様だった。


「……不穏です」


 それは果たして安心できるような内容なのだろうかと、ミヤコは目を眇める。


「ツカサちゃん!」


「いやあだってねえ、あの子ら悪い子じゃないけどデリカシーがあるって言い切れないよねえ?」


 ユカリが助手席のシートベルトを外しながらツカサを睨むが、ツカサはへらへらと真剣みのない笑みを浮かべてユカリの叱責を聞き流す。

 しかしそんなツカサの言葉を肯定する声があった。


「間違っちゃいないな」


 いつの間に来ていたのか、駐車場のある場所にマコトがいた。


「マコトちゃん!」


 下手にツカサの言葉を肯定するなとユカリは肩をいからせる。


 ユカリもツカサも車を降り、ミヤコにも降りるよう促す。本当はこの家に住むことに気後れしているのだが、それでも促されては仕方ないのでミヤコはシオリから貰った服を抱えて車から降りる。

 ミヤコが強張った表情のまま服の入ったランドリーバッグを強く握りしめているのを見て、ユカリは前言を撤回する。


「……うん、そうよね、不安よねごめんミヤコ君。弟たちは良い子達よ。怯えなくて大丈夫だから」


「はい」


 どちらかと言うとツカサたちの弟よりも、家の大きさの方がショックが大きいのだけれど、ミヤコは素直にうなずいておく。


 それでもやっぱり車から出て見るツカサの家はやたらと大きい。自然と感想が漏れてしまう。


「おっきい、です」


「無駄にね。一応中はリノベしてあるから洋間も多いよ。水回りは五年くらい前に全部新しくしたし」


 ツカサが苦笑する。あまり家が大きい事を誇りには思えないらしい。


 水回りが例え何十年前の物であろうとも、コンクリート作りの夏は蒸し風呂、冬は冷蔵庫かと思うようなトイレよりはましだろう。

 ミヤコは家の居心地にそこまで興味はなかった。気後れしてしまうのは、自分のような一般常識もままならない人間が、こんないかにも偉い人とかお金持ちが住んでいそうな家で粗相をしないかという事だ。


「じゃあ僕帰るから。ユカリあとは任せるけどいい?」


 そう言うとツカサは何故か乗って来た車では無く、隣にあるマコトが乗っていた車に乗り込んだ。


「うん大丈夫。先に連絡も入れてるしね」


 ユカリもマコトもツカサの行動に疑問はないらしい。

 マコトは自分も車に乗り込もうとするが、直前に何かを思い出したようにミヤコへと駆け寄った。


「ミヤコ、これが俺とツカサの名詞。何かあったらいつでも連絡しろ」


 マコトが差し出したのは企業の名刺。名前や役職呼び出し番号、裏にそれぞれの個人の物と思わ色メールアドレスとスマホの電話番号が手書きされていた。


 手渡された名刺に、ミヤコはありがとうございますと頭を下げる。

 ミヤコはスマホなどもちろん持っているわけでもないので、この番号を使う日が来るのは難しいだろうと感じていた。

 それでも自分を気にかけてくれる証なので、ほんのちょっとミヤコの口角が上に上がる。


「あ、だったら私も私もー」


 ユカリにも渡されたので有難くミヤコは受け取る。

 穴の開いていないポケットの付いたパンツを履いていたので、そのポケットに名刺を入れる。僅かに満足げにミヤコは頷く。

 この名刺があるなら、目の前の豪邸は少しだけ怖くないかもしれないと思えた。

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