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23.ツカサさん家の訳あり続柄

 食器はツカサが片づけると、台所に持って行った。

 シオリは、だったらケーキは自分が冷蔵庫に入れますよと、ミヤコを置いてやはり台所へ。


 話し声が聞こえて来た。

 ミヤコはとっさに聞かないふりをしようとしたが、自分の名前が挙がるのを聞き、ついつい耳を傾けてしまう。


「ミヤコ君は紅茶苦手みたいですね。そこまで表情変わらないのに二口目飲むのに随分と時間がかかっていました」


「ああ見た見た。口がちょっと半開きで牙が覗いてて可愛かったね。苦いのは平気そうだったけど、紅茶の匂いそんなに気になったかな?」


「何ですその猫のフレーメン反応を見た時のような感想は」


 会話を水音でかき消そうとしているのか、食器を洗う水流が少し多くなる。


「それと……チョコレートケーキも平気なようです。たぶん身体はほぼ人間ですね。だけど異能は確実に発言しているし、食べている量を考えても物質が体内で直接異能のための力に返還されているのは間違いないかと……実際触れてみた方が分かるんですけど、あんまり今のミヤコ君には接触しない方がいいと思いますよ」


 チョコレートケーキが自分にどのような関係があるのかと、ミヤコは首を傾げる。


「うーんやっぱりそっかあ。手を翳して怯えられちゃったしねえ」


「それはまあ仕方ないかと。女性でも、中性的でも怯えていて、逆にマコトさんにはお二人ほど怯えてる様子はないんですよね?」


「ああうんそうだね。そう言えばそうかも。マコトの方が僕らよりも先に話しかけても平気でいたかなあ……でも背が高い男性にも一応怯えてるというか……うん、多分虐待の主犯は奥さんの方なんだろうなあ、けど夫の方も」


 ツカサは呆れたように言っているが、わずかに低くなった声が呆れ以外の感情を表しているようだった。

 確かにミヤコに躾と称して手を上げていたのは殆ど叔母の方だった。叔父も稀に暴力と言える行為を行っていたが、突き飛ばしたり足蹴にして退かそうとしたりという、目的があっての行為だった。

 暴力のために理由を作る叔母の方が、理由があって暴力的なことをする叔父より怖かったのだと、ミヤコはこの時になって自覚した。


「そう言えばさっき聞いたんですが、ミヤコ君がお世話になるの、ツカサさんのご実家なんですよね? 私がお邪魔するのって大丈夫そうですか?」


「そうそう僕の家。だから問題無し。と言っても僕の住んでる部屋じゃなくて水前寺にある実家の方ね。今は弟たちが暮らしてる。親はもーっと田舎に引っ込んだから気を使わなくていいよ。お手伝いさんもいるから家事の方も心配なし。ご飯美味しいらしいよ」


「弟さんたちに、迷惑にならないでしょうか?」


「部屋はあまりまくってるから大丈夫。それに、ミヤコ君の境遇知ったら黙っておけないような子達だからね、きっと力になってくれる。っていうか前例有りだからね」


「ツカサさんの家なんですよね? ちょっと放任すぎるのでは? 今までもだけどどうして弟さんたちに丸投げ?」


 シオリの声が僅かに険しくなる。

 表情こそあまり変わらないが、シオリの声は感情豊かだ。

 聞けばそこに呆れと若干の怒りが含まれていることが分かった。


「丸投げって言うかさ、僕仕事の方が忙しいからたぶんほとんど帰らないかな」


 へらへらと笑って言うようなツカサの言葉だったが、そこにはミヤコに向き合っている時のような真剣さは無く、どこか誤魔化しをしているように聞こえた。


「代わりにユカリとマコトにしょっちゅう顔出すように言っておくから。で、居心地が悪いようならその時はまた相談ね。ミヤコ君にとって住みやすい場所を探そう」


 シオリの声にこもる呆れが深くなる。


「はあ……まあ確かに、衣食住の安全安心が確保された場所だけじゃ、ミヤコ君の境遇へのフォローとして足りないと思うので、事情知ってる他人との共同生活は……若い男性三人なら有りですかね……でも黒江家って正直言って嫌いです」


「あ、だよねー。僕も同じ同じ」


「名目としてはご当主なんでしょ、もっと下の人たち管理したらどうです?」


「うんごめんねえ、その節は色々と。でも言い訳させてもらうと、たぶんシオリさんが迷惑被った頃僕単純にクロエのみそっかすというか、面汚し扱いだったしい、どうこうできる権限なかったんだよね」


「ふ、それが今はあんななんですね。嫌な感じですよね、黒江家って」


 つくづくと呟くシオリに、息を溢すような苦笑だけを返すツカサ。

 この二人のやり取りの意味がミヤコにはわからなかったが、それでも二人にとって黒江家が嫌な感じだというのは、共通認識であるらしかった。


 ミヤコは自分の聞いてしまった話を聞かないふりをするべきか、それとも本人に訊ねてみるべきか悩んだ。

 ツカサの言葉からするに、ツカサは自分の弟とあまり良い仲ではないらしい。しかし、ミヤコの境遇に同情を寄せる善良さがあると思っているようだ。


 二人が食器を洗い終わってリビングに戻ってくると、何処か居心地悪そうに姿勢を正すミヤコに、二人はどうやら会話が聞こえていたようだと悟る。


「別に僕の弟君を取って食べるわけじゃないよ? 個人的に性格が合わないから距離取ってるだけだし」


 あっけらかんとツカサは言うが、その横でじっとりと半眼に据えた目でにらシオリの表情が、それだけでは済まないだろうと感じさせた。


「状況の説明もユカリがすでに済ませてあるしさ、文句言われるような連絡もないし大丈夫だって。それにね、僕の家で身寄りがあると言い難い子供を保護するのって初めてじゃないし」


 とたん、シオリが鼻の頭に皺をよせ、これでもかというくらいに不機嫌な表情を作った。

 気を付けて見ていれば僅かに変わる程度のシオリの、珍しく明確に示された不快の表情に、ミヤコは僅かに肩を跳ね上げる。


「あの、シオリさん?」


 おずおずと窺うように名を呼ばれ、シオリはミヤコへと視線を移す。


「ああごめんなさい、ちょっと黒江家の先代とうちの母の間でいろいろあったのよ」


「先代って、ツカサさんのお父さん?」


 ツカサが今の当主だというのなら、その先代は父親だろうとミヤコは考えたが、ツカサやシオリは首をふったり肩をすくめたりと、否定を返す。


「書類上では一応?」


「続柄は元曽祖父でしたっけ?」


「そうそう」


 どうやら少々込み入った事情があるようで、ツカサは実父母の子供としては扱われていないらしい。

 養子縁組で親を変えるというのは他人の家のセンシティブな事情なのではないかと、ミヤコはちょっと冷や汗を流す。


「隠してもないけど大っぴらに宣伝してるわけでもないから、あんまり人には言わないでね?」


 ツカサから軽くウィンクを貰い、ミヤコはなんとなく呆れた気持ちで「話す相手がそもそもいいないです」と返した。


本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。


読んでる人いるのか知らんけど、地元大好き人間の地元愛で出来ているただの地元への惚気に物語を加えただけの物だと思ってください。

過度な期待をされると地元惚気成分が減るかもしれません。

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