21.怪しいお店のお茶の正体
ツカサが挙手をしてまで話そうとしている内容は、玄関入ってすぐに話そうとしていた話題だろう。ミヤコは聞く意思があると示すようにこくこくと頷く。
「隠すことは止めたの?」
シオリの睨むような視線に、ツカサはまあねと曖昧に返す。
「隠し事して追及される方が何か面倒だってなっただけだよお。隠してたって程でもないしさあ。それにさ偶然、偶然だよ、偶然にも怪しいお茶を提供してるカフェを見つけちゃって、入ってみたんだけど、そこで提供されてるお茶が何かおかしくってさ、ミヤコ君に言われて口にする前に対処できたんだよね」
偶然と繰り返すほどにうさん臭くなるのだが、シオリの疑いの視線をあえて無視してツカサは説明を続ける。
「これね、異界産の植物を使ったフレーバーティーだったよ。一部の国では合法だけど、日本だと規制されてるやつ。麻薬に似た作用があってね、飲むと高揚感が得られるんだって。一応依存性は低いし後遺症という程の症状はまだ報告されてないけど、性質的にそれなりに依存症状出るかもっていう。実はさあ、最近これが流通してるって話だったからさ、持って帰って来たサンプル真っ先に調べたらビンゴだった」
言ってツカサが取り出したのは、親指ほどの大きさの小さな瓶に入れられた濃い赤茶色の液体。
僅かしか入っていないそれを、しっかりと見えるようにシオリに差し出す。
「それ……どこで?」
何を感じたか、シオリはツカサに向けていた視線を瓶へと移し、瓶から距離を取るように身を引いた。
「上通裏のカフェだよ」
その言葉にシオリはすぐに得心が行ったと頷いた。
ミヤコをその店に連れて行った事もすぐに気が付いただろうが、シオリはそれを咎めることなく、件の店についてやっぱりそうだったのかと一人ごちる。
「ああ、あそこですか……」
思わぬシオリの反応に、ツカサだけでなくミヤコもぎょっと目をむく。
「あれ? もしかしてあの店ってそいう言う意味で有名だったの?」
白々しいツカサの言葉に、シオリは大きくため息を吐いて答える。
「っていう程じゃないんですけどね。麻薬と同じで、常飲してるとなんか妙な甘ったるい匂いがするんだそうですよ。バニラアイスをうっかり腐らせたような匂いがするって言ってる子がいましたね」
「ああ、なるほどねえ」
ツカサは得心が行ったと頷く。中学生同士の繋がりか、シオリは件のカフェについて知っていたようだ。
「にしても嫌な例えだね」
具体的に嫌な臭いを明文化するシオリに、想像したのかツカサが苦い顔で舌を突き出す。
ミヤコもその表現に納得するところがあったのか、小さな声で「確かに甘くて臭かった」と同意する。
「だから勘の良い子たちはあんまり好きじゃないって言う程度で、そこまで話題になるということも無く……ただなんか嫌だなっていう印象のお店です。というかねツカサさん本当にお店の評判知らなかったというつもりですか?」
中学生同士で話に出るくらいにはすでに知られた話題。異界関係のトラブルシュートを生業としているツカサが、この店について目を付けてないはずがないでしょうと、シオリは鼻で笑う。
何より問題のあるお茶の成分を得るためにスポイトを持ち歩いていたことや、すぐに検査して見つけ出せる時点で、最初から疑ってその店に入ったとしか思えない。
完全に黒だろうとシオリは思っていた。
「僕夕方の情報番組で大人気ってみたんだけどなあ……せっかく美味しい店紹介したかったのに」
ローカル番組の情報なんてあてにならないのかと、わざとらしくしょんぼり項垂れるツカサ。その視線はチラチラとミヤコを窺い見ていた。
「ランチのは、美味しかった、ですよ?」
ボリュームもあって味も良かったから行って良かったとツカサをフォローするミヤコ。
純粋にミヤコに美味しい物を食べさせたかったのだろう。ツカサの行動をミヤコはそう捉えた。しかしシオリの視線は未だ厳しくツカサに注がれている。
シオリは思う。絶対にこの人最初から知ってた……。
やっぱり危険にさらしたんじゃないかと叱責されるのを回避する為か、ツカサはわざとらしく声を張りそう言えばと、手に持っていた幾つかの袋を掲げた。
「ミヤコ君、シオリさんこれーお土産。じゃーん、スイスっていうお店のケーキ!」
言われてミヤコは思い出す。そう言えばツカサはどこかでケーキ買ってきてもらおうと言ってたいことを。
結局自分で買いに行ったらしい。
「凄く魅力的な誤魔化し方ですね。憎らしいわ」
それまでツカサに対する疑いで凝り固まっていたシオリが、悔し気に袋を睨み付ける。
ケーキの魅力の前では、シオリのお説教も力を無くしてしまうらしい。
本日の更新はここまで。
明日以降も一日一回以上の更新を目指したい……けど体調を崩しているので、無理のない範囲で。
頑張る、ます。