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19.ツカサさんの信用

マチ、パル玉、角マック。

待ち合わせに必要な合言葉。

 ミヤコはあまり他人との会話が得意ではない。それでも緊張を初めての饅頭へのドキドキに取られたか、昨日よりもスムーズに会話が出来ているなと、ミヤコはちょっと自分で驚いていた。


「ミヤコ君もっと食べていいからね」


 ミヤコが一つ目の饅頭を食べ終わったのを見て、シオリも自分の持って来た饅頭に手を付ける。白あんと言っていた方だったので、二つ目はミヤコも同じく白あんを食べてみる。


 饅頭を一個、二個と食べながら話を続ける。

 しかしシオリが思っていた以上にミヤコは何も聞かされていないようで、話す内容はすぐに尽きてしまった。


「特に予定……は、もうちょっと落ち着いてから立てるよね? うーん、後聞いておきたいことは……今はいいか」


「うん、俺もあんまり話聞いてないし、多分答えらんない」


 シオリは答えられないなら無理に答えることはないんだけどねと話題を変える。


「白あんと黒あんどっちが好きだった? 今度持ってくる時はそっち多目にするから」


 シオリは二つ目は黒あんを頬張り、ミヤコにどちらが美味しかったかと問う。


「えっと、黒あん。でも白も美味しい」


「そっか。あ、じゃあ今度は外で食べよう? このお饅頭のお店のね、かき氷も美味しいんだよ。あ、今日『マチ』に行ったならもしかしたら私たちとニアミスしてたのかな?」


「町?」


「中心市街地の事だよ。中心市街地をマチって呼ぶの田舎あるあるだと思ってた。でもその反応だと違うんだね。市役所は中心市街地のすぐそばでしょ。このお饅頭のお店も中心市街地にあるんだ。中心市街地は大きなアーケードの商店街とかデパートの周辺ね。一番大きな電車の通る道からお城を向いて、右手が上通、左手が下通り」


「あ、だったら、ツカサさんと上通に行った、よ」


 答えられる話題に、まさにそのマチに今日行ったのだとミヤコは食い気味に答える。

 シオリはミヤコが食いついてきたことに満足そうに話を続ける。


「あー、じゃあ本当に近くにいたかもしれないね。だったらその時にかき氷お勧めしたかったな。シンプルだけどおいしいんだよ。街に居たなら何かお昼とか食べて来た?」


 昼食を問われ、ミヤコはぴたりと動きを止める。


「どうしたの?」


 分かりやすいミヤコの動揺に、シオリの眉間に皺がよる。


「ツカサさんが何か良からぬことでもした?」


 なぜそこでツカサに濡れ衣がかかるのだろうか。

 しかしカフェでのツカサの行動を思い出し、ミヤコはすぐに濡れ衣じゃないかもしれないと思い直す。


「えっと……ツカサさんのお仕事に関係する事? っぽいのに遭遇しました」


 ツカサの仕事と聞きシオリが椅子から立ち上がって驚く。


「え、大丈夫だったの? ツカサさんの仕事って、異界とか異能とかに関係することだよ? そういう事のトラブルシュート専門の会社の社長だよあの人」


「え! 社長なの?」


 それは初耳だとミヤコも思わず立ち上がる。

 ただ言われてみれば時々それっぽい事を言っていた気がすると、ミヤコは漏れ聞こえていたツカサやユカリたちの会話を思い出そうとする。

 しかしゴホンとわざとらしい咳払いをしてシオリが座ったので、ミヤコもそれに倣い座り直し思い出すのをやめた。


「社長なんだよ。ちゃらんぽらんに見えるけど……ああ見えて顔は広いし、フットワーク軽くて、ちゃんと仕事は熟してるっぽいから不思議だよね」


「そう、だね」


 そう言えばミヤコと最初に出会ったのも、警察の依頼を受けて、異能持ちのミヤコに逃げられないように派遣されたのだった。

 その後も異界の巨大な馬の暴走を制圧する様子も見ていた。

 ああいった荒事が専門の仕事だったなら、シオリがこれほど驚くのも仕方ないだろう。


「あ、でも、ツカサさんの影……は、凄かった、から」


 語彙力の乏しいミヤコによるツカサ擁護に、シオリが表情の薄い顔に苦笑を浮かべる。


「あれは確かにそうだね。他の誰も真似できない最強クラスの力らしいから」


「最強? 何と比べて?」


 苦い物でも飲むように顔をしかめたシオリが答えるよりも先に玄関のドアが開いた。


「ただいまー。お仕事終わったー。お土産あるよー」


 のんきな声で帰宅を告げるツカサに、ミヤコとシオリは顔を見合わせる。

 噂をすれば影が差すとは言うが、これはまた見事なタイミングだとお互いの顔に書いてあるかのようだ。


「ミヤコ君早々に分かったよ、あれ! あ……」


 いるとは思っていなかったシオリの姿を見止め、ツカサは気まずげに手にしていた何かを後ろ手に隠した。

 直前の会話もあり、ツカサが隠した何かは今日のミヤコの昼食と関係があるのだろうと、シオリは目を眇める。


「ミヤコ君に何させたんですか?」


「シオリさん来てたの?」


 シオリの問いに答えずにこやかに張り付いた笑みを浮かべるツカサ。

 シオリは知っている嘘が下手なツカサが自分の考えや感情をごまかすときの癖だ。言いにくい事や腹が立つことがあるたびに、ツカサは作り笑いで物ごとを流そうとする癖がある。

 付き合いの浅いミヤコにさえこの笑みの時のツカサは信用ならないと感じさせる見事な作り笑い。


「来てたら悪いんですか?」


「悪くない悪くない。でも君も忙しいでしょ? どうしてわざわざ」


「母からよろしくと言われたからですが」


「あ、そうなの?」


 シオリは無表情で淡々とツカサに応じ、ツカサはそんなシオリに作り笑いで曖昧に返す。


「それで、ミヤコ君に何かさせたんですか?」


「んー? 何かって何かな?」


「分からないから聞いているのですが?」


「分からないなら聞かなくてもよくない? たぶんシオリさんには関係ない事だよ」


「関係ないかどうかは聞かなきゃわからないですよ。というかミヤコ君を危険にさらしたりしてませんか?」


「それはしてないよ流石に」


「流石に、ですか。だったらミヤコ君以外には普段から危険にさらしている自覚があるんですね?」


「んー、自覚って、どういう認識が有ったら自覚なんだろうね?」


「話を脱線させようとしないでください。ミヤコ君に危険なことをさせないでください。危険な事の定義は、個人の見解ではありますが異界に関することにミヤコ君を巻き込むこと全般です」


「異界がそんなに危険なことだと僕は思わないんだけどなあ」


「へえ、本当に?」


「本当本当」


「自分がいま信用ならない顔をしてるって理解してます?」


 ツカサは「うふっ」と笑って誤魔化した。

 もちろんシオリはそれで誤魔化されはしなかった。

本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指してますが、ちょっとどうなるか分からない。

がんばる、ます。


熊本の名所、ここ作中に出して?っていうご意見大歓迎。

でもあんまり出歩かないからネット検索した感じの内容しか描写できないので、作中におかしなところがあってもご容赦ください。

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