18.茶番はおらずも茶番せん
今川焼?
回転焼き?
大判焼き?
いいえ蜂楽饅頭です。
店を出てしばらく歩いて、ツカサが小声でミヤコに問う。
「と、読んで字のごとく茶番をしたわけだが……どうかな? 他のからも異界の気配感じる?」
たしかにあれは茶番だったとミヤコは深々と頷く。
あまりにも強引で、でも自然な茶番に、誰もツカサがお茶を飲まずに店を立ち去りたいがためにカップを落としたなどと思わなかっただろう。
「お茶だけ……みたいです……その、お茶の葉っぱが入ってるクッキーからはいっさい感じないんで、お店で飲むお茶だけだったみたいです」
ミヤコは一通り買った持ち帰りの菓子の入った袋を覗き込みながら答える。
持ち帰りのできる甘味を一通り買い込んだのは、自分に調べさせるためだったのかとミヤコは納得する。
二人で手分けして持つケーキやクッキーの詰まった紙袋は合計七つ。紙袋自体はそこまで大きくはないが、それでもかなりの量だ。
「なるほどなるほど、外に持ち出せない物に限定してるんだね。うーん、という事は持ち出しされたら拙いって自覚あってだったりするかなあ? じゃあこれは持ち帰って成分調べなきゃいけないけど、証拠にはならなさそうかなあ」
あのブレンドティーテイクアウトには無かったものねと、ツカサは表情を消して手にしたケーキの箱を見下ろす。
「それでも一応は検査しなきゃかな……あー、食べたかったなあケーキ。後で誰かにケーキ買ってきてもらおっかなあ」
ミヤコを拠点へ送り届けて、ツカサはすぐに買い込んだ菓子と、お茶の入ったスポイトを持って車で出かけていった。
ミヤコが戻ると拠点にはユカリがいたが、予定していたシオリの来訪と入れ替わるように出かけていった。
「ちょっと実家の方と話があるから行ってくるね」
お留守番よろしくねと出かけていくユカリ。
無責任なのか、それともそれほどシオリが信頼されているのかどちらだろうか。
「色々言いたいことはあるけど、とりあえずお茶貰います。外すっごく熱かったから」
そう言って勝手知ったる他人の家とばかりに、シオリは冷蔵庫を開け六百ミリリットルのペットボトルの麦茶を日本取り出し、片方をミヤコへと渡す。
「ここ、しょっちゅう来てるしお茶は好きなの飲んでいいって言われてるんで大丈夫よ。あとこれは手土産のお饅頭……」
そう言ってシオリがビニルの袋から取り出したのは、紙の箱に入った今川焼風の饅頭。
「こっちの三個が白あんで、こっちの五個が黒あんです。好きなの食べていいよ」
やっぱり食べさせてくるんだなと思いつつ、ミヤコは有難くその丸い饅頭を手にする。
シオリが持ってくる手土産は常識的な量なのか、それとも少し多いのか微妙なラインだ。
香ばしい生地の匂い。甘い餡子の匂い。ミヤコはこれが巷では名前を言ってはいけない食べ物だという、謎の言説を聞いたことがあった。キノコタケノコよりも熾烈なのだそうだ。
少しドキドキして初めての味を噛みしめる。
まだ温かくて、凄く甘くて、胃の中がじわじわと満たされるような味わいだった。
「おいしいれふ」
「気に入ってもらえたならよかった」
ミヤコが饅頭を食べるのを見ながらシオリは麦茶で口を湿らせ話を始める。
「昨日色々ユカリさんとうちの親が連絡とってたみたいでね、住む場所の事もあるしミヤコ君はたぶん私と同じ中学に転校って形になると思うから、勉強の進み具合とか、色々気になることがあるなら聞いてほしいんだけど、何かある?」
問われてミヤコは考えるように俯く。
「……勉強の、進み具合は、知りたいかも」
「じゃあ次に会いに来るときは教科書持ってくるね。さすがに口で言うだけだと分かりにくいと思うし」
「うん、ありがとう」
「今後の事とか、どこまで予定してる?」
「予定……住む場所がツカサさんの実家になったから、今日からそっちで寝起きしろってのは言われてる」
住む場所が移ることは伝えておかなくてはとミヤコは答えるも、シオリは僅かに眉間に皺を寄せる。
どうやら聞きたかったのはこのことではなかったらしい。
「それだけ? 何かすることの予定とか、今までと変わった事とかなかった?」
少しきつく問い詰めるようなシオリ二、ミヤコは戸惑いながら何か変わったことはあっただろうかと記憶を探る。
大きく変化した事と言えば、今日市役所に行って行った手続きだろうか。
「だけ……あ、一応今日、午前中に役所に行ってきた。たぶんそれで保護者はツカサさんになったと思う」
「そっか、それならよかった。無理やり元の家に戻れって言われなくて済むね」
聞きたかった答えを得られたらしく、ほうっと息を吐いて椅子に深く身を沈めたシオリの言葉に、ミヤコは深々と頷いた。
蜂楽饅頭です!
ほうらくまんじゅう、って読みます。
私は黒あん派です。でも白あんも美味しいです。