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14.ミヤコ君と思いがけないこと

 拠点と言っていたマンションの部屋に二晩泊って翌日、熊本三日目のミヤコは繁華街にいた。

 服を買おうとツカサに連れてこられたのだ。

 ついでに役所に行ってミヤコ自身がサインしなくてはいけない書類も出してこようとツカサは言うが、多分そちらの方が本命で、服の方がついでなのではとミヤコは思った。


「ふふ、こういう時って僕お得なんだよね」


「得なんですか?」


「そう、子連れでも不審者に見られないの。子連れだとだいたい僕の事周囲は女性に見えるらしいよ」


 と言うツカサの服装は、やけにフリルが多い真っ黒な緩い長袖シャツに、真っ黒なガウチョ、それを太めのベルトで腰高に止めている。目にはサングラスで、足元は踵の高いハーフブーツ。書類を入れるためにちょっと大き目な肩掛けのバッグを持っている。そして色は全部黒。ポニーテールにしているので首元だけは涼しげだが、正直言って夏の装いではない。


「僕の容姿だと君を連れていても職質されないの」


 不審者に見られないというのは、男性が子連れだと誘拐犯に間違われるという話だろう。ミヤコの叔父も癇癪持ちの息子を散歩させるのに誘拐犯と間違われて散々だったと話していたことがあった。

 しかしミヤコはツカサの恰好を頭のてっぺんからつま先まで三度見返し胡乱に呟く。


「真っ黒……不審者では?」


「それが意外とねえ、これで気にする人いないんだよ」


 そう言ったツカサの言葉通り、誰もツカサに見向きもしない。ただそこにいるモブの一人だとでも言わんばかりの無関心だ。

 こんなに真っ黒な怪しい人なのに? 単に他人に興味のない人たちばかりなのだろうか? ミヤコは周囲を見たあともう一度ツカサを見やる。

 百年前ならまだしも、異界の流入ですっかり近年では珍しい髪も瞳も真っ黒なツカサは、やはりどう見ても目立つ存在だ。

 これならばオレンジの髪や金の瞳のミヤコの方がまだ周囲になじむというもの。


「まあ、ネタバラしすると、僕の異能の副次効果なんだよね。僕の右の手足はさ、僕の影で作ったものなんだけど、この影を使ってると普通の人の認識が阻害されるらしくてね、僕はそこにいるのに透明人間みたいなものなんだよ。本物の手足は神奈川でなくしちゃってさ」


 自分の姿が人に奇異に見られない事の一端に、自分の異能があると白状するツカサ。

 ツカサの手足が異能によって形作られていると聞いて、ミヤコは納得すると同時に息がつまるような気がした。


 ミヤコには初めて会った日に見たツカサの右の指先から、黒い靄が漏れているように見えていた。その靄が紐となって自分を拘束していたのも理解していた。


 異能は人が死に瀕した時に最も覚醒する可能性が高い。

 実際ミヤコも七年前の神奈川で人よりも極端に優れた五感を覚醒させた。


「それって……」


 あの災害の後遺症なのか、そう聞いてしまうのもはばかられ、どうしたものかと視線をうろつかせる。

 今のツカサの右手は日焼け防止の黒い手袋をしているので、本当にそこに手があるのかどうか見ることはできない。


 そんなミヤコに、ツカサはクスリと音に出して笑う。


「だからね、君が僕を見てくれた時、すごくうれしかったなあ」


 嬉しかったという言葉が意外で、ミヤコは弾かれるようにツカサを見る。


「ねえミヤコ君、これって運命感じない?」


「えっと……」


 運命というにはその繋がりの根幹はどうにも寝覚めの悪い悪夢のような光景。

 思い出してミヤコは気持悪そうに口元を押さえる。


「ふふふー、まあ冗談なんだけどね……」


 ツカサはミヤコの様子に気が付いてないかのようなそぶりで歩き出す。

 バス停は役所のすぐ目の前。ちょっと歩けばクーラーの付いた涼しい室内だ。


「ねえミヤコ君、運命感じるんならさ、もし君が望むなら、僕の養子にでもならない?」


「遠慮したいです」


 ツカサの誘いに間髪入れずそう答えてしまったのはただの反射だった。

 ミヤコにとってあの神奈川での災害は思い出したくない記憶だ。それが縁での養子縁組というのは嫌過ぎた。

 ツカサが嫌いなわけではない、そう言い訳をしようと顔を上げるがなかなか声が出ない。

 ツカサの事は嫌いではないが、好きでもないので、だから養子縁組と言われても戸惑うしかない。


 またもツカサは音に出しくすくすと笑う。


「フラれちゃった、じゃあしっかりお爺さんたち探さなきゃねえ。だいたい目星は付いてるから、近いうちに会えると思うよ」


 どうやらちょっとからかわれていただけらしい。

 ミヤコは流石に不服そうに唇を突き出した。

 あまり表情を変えないミヤコが分かりやすく不満を表したことを、ツカサは嬉しそうに笑って頷く。

 ミヤコはそれが面映ゆく感じてまたひっそりと顔を伏せた。

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