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13.優しさと不安とあと閑話

有田焼カレーは佐賀県の駅弁です。

美味しいよ。

 夕飯もまたカレーだった。 

 あくまでも拠点であり定住しているわけではないため、あまり多くの生物を置いておけないからという理由で、どうしても出来合いの物を買ってくるか、レトルトや冷凍食品に頼ってしまうのだという。


 夕食を食べながらも、まだ説明事項があると、ユカリは一人スプーンを置いて話し続けた。

 話の内容は基本的にミヤコが今後受ける処遇だ。

 保護する家がツカサの家である事、学校へはその家から通う事になるので転校の手続きをしなければいけない事、夏休み期間中はたまに福祉関係の大人と何度か面談をしなければいけない事など、多くの事をユカリは話し続けた。

 その合間に夏休み期間の平均が若干元の住んでいた地域より短い事が分かったので、その辺りのスケジュールも調整していこうとなった。


 夕食後、陶器に入ったチーズケーキをデザートに食べながら、ミヤコはほっと息を吐く。


「ユカリは話し出すと止まらないもんね」


 ずっと話を聞かされ続けるのも疲れたでしょうと、ツカサは半笑いでユカリを指さす。


「ツカサちゃんも似たようなところあると思うよ?」


 そんなツカサの指を握って反り返らせながらユカリはフンと鼻を鳴らす。


 二人のじゃれ合いをよそに、ミヤコは黙々とチーズケーキを完食し、それに気が付いたマコトがミヤコの前にもう一つチーズケーキを置く。


「気に入ったならもう一つ食べろ」


「……美味しいです。ありがとうございます」


「良かった。こっちもお食べー」


 マコトとミヤコのやり取りを見てツカサもまた自分の分の手つかずのチーズケーキをミヤコの方へと押しやる。


「すぐそうやって餌付けしようとする」


 そう言うユカリは自分の分のチーズケーキを死守する構えだ。

 ユカリが甘い物を譲ることは滅多にない。


「だってねえ、ミヤコ君もうちょっと大きくなりたいなら食べた方がいいよ。牛乳も毎日飲んだ方がいい」


「え、ああ、はい、頑張ります」


 ツカサの言葉にミヤコは思い切り激しく縦に首を振る。

 お昼に飲んだ牛乳美味しかったと、その紅潮した頬に書いてあるようだ。


「うん、じゃあ家の人にも、明日から冷蔵庫に牛乳かかさないように言っておかないとね」


 ミヤコは僅かに肩を震わせる。


「あ……ありがとうございます」


 今すごく楽しかったから忘れていた。

 ミヤコは明日からは違う場所で世話になる。

 ツカサの実家だというがツカサは一緒には住まないらしい。代わりにツカサの兄弟たちが居る。

 その兄弟たちにはきちんと紹介をするからと言われているが、ミヤコは少しばかり不安があった。


「大丈夫、良い子達だから」


 ユカリはそう言うが、ツカサは何処か白けた様子。マコトは苦々しそうにツカサの後ろ頭を小突く。


「ツカサ以外には良いやつらだ。お人好しの集まりだから無体はされない」


 ツカサはそれを否定しなかった。

 ミヤコはやっぱり不安だなと、ごくごく小さなため息を吐いた。


閑話


 時は少し戻って。


 そろそろ日も暮れるころ、出かけていたツカサが帰って来た。

 ツカサは玄関を開けて駆け込んでくるや、嬉しそうにユカリに報告をする。


「ただ今ユカリー! ミヤコ君は元気してる? あのさ駅弁フェアやってたよ! ユカリが欲しがってた焼きカレーのあったから五個ずつ買ってきちゃった。食器棚まだ入るよね?」


 そう言ってツカサが掲げたのは、弁当というにはやけに重そうなエコバッグ。


「あー……ミヤコ君、まだカレー食べられる?」


 それを見てユカリはしまったと額を押さえ、申し訳なさそうにミヤコへと問う。


「え? あ、はい、大丈夫です」


「え? ちょっとちょっとちょっと家の中カレー臭すごい、もしかしてお昼にカレー食べちゃった?」


 うわーと、テンション高く呻いて、ツカサはエコバッグのなかからどう見ても弁当に見えない箱を五個取り出す。あえて言うなら贈答用の茶碗や皿が入っていそうな箱だ。


「これもカレーなんだよね。有名な駅弁でね、有田焼の器が持って帰れるの。味もいいけどこの器が凄くいいんだあ」


 ツカサが開けた黒箱の中には、立派な有田焼に入った焼きカレー。

 サイズこそ大きいものの、先ほどお昼に食べたカレーを入れていた器とそっくりだ。


「こっちはチーズケーキなんだけど」


 さらにツカサが取り出したのは一回り小さい赤箱が五個。

 中身はお昼に使っていたのと同じサイズの有田焼の器に入ったベイクドチーズケーキ。


「ごめんねミヤコ君。私がこの器大好きで集めてるから、見かけたら買って来てくれる人が多いんだよ。だから多分……」


 噂をすれば影が差すというが、ユカリが気まずそうに説明をしているまさにその時、ユカリのスマホがメッセージの着信を告げる。

 スマホを確認しユカリがははと乾いた笑いを溢す。


「えっとねえ、カレーあと六個、チーズケーキも三個追加かな」


 そう言ってミヤコたちに見せたのは、マコトからのメッセージ。


『あるだけ買った。有田焼カレーを買った。カレー六つ、チーズケーキの小さいの三つ。夕飯用』


 ミヤコはそのメッセージとツカサを交互に見やり、ほんのわずかに口の端を持ち上げる。

 それまで表情金が死んだかのように動かなかったミヤコのその表情に、ツカサもユカリも驚き息を飲む。


「俺、カレー好きです」


 小さく、そしてちょっと楽しそうな声音でミヤコが言う。


「ユカリさんが……好きだからって、いっぱい買ってくるの、ちょっと面白い、です」


 何も示し合わせてないはずなのに、たくさん集まるカレー。

 ツカサもマコトも自分自身のためではなく、誰かのためにと行動をしているのだと分かるから、ミヤコはなんだかすごく安心した。

 それから少し懐かしい気がした。


 しばらくして、カレーを持って帰って来たマコトは、ツカサと被ったのはいつもの事と諦めていたようだが、流石に昼もカレーだったと言うミヤコとユカリに、何か別の物を買ってくると再度出かけようとした。

 が、ツカサが異能で足をかけ引き留めたせいで、盛大に転んだマコトがツカサに殴りかかることになったのだった。

本日の更新はここまで。

明日以降も一日一回以上の更新を目指します。

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