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12.カレー日和

熊本は牛乳が美味しいよっていうお話。

 目が覚めると見知らぬベッドの上。ミヤコはその状況に喉を引きつらせ、零れた空気がヒュッと鳴る。

 ミヤコは自分がいる場所を確認するために身を起こすことなく、ただじっと動かないでベッドの上から見える部屋の様子を窺う。

 身を丸めたままドキドキと激しく脈打つ心臓を押さえ、自分が今いる場所が病院でないことを確認する。


 またあの時のように、気が付いたら病院のベッドの上なのかと思った。

 そんなはずはないと分かっているのに。

 耳にはあの時聞こえていた看護師の声は聞こえていない。ただクーラーのモーター音だけが聞こえる。

 鼻にはあの時喉を塞ぐほどに充満していた消毒液の匂いは感じない。見知らぬ人家の、清潔なシーツの匂い。

 室温はちょっとクーラーが効きすぎたくらいで、自分にかけられているタオルケットを必死に肩まで引き上げる。

 震える手でタオルケットを強く握りしめ、ミヤコは心臓が落ち着くのを待った。


 何度か深く呼吸を繰り返し落ち着いてくれば、昨日自分の身に何が起きたのかを思い出す。


「そうだ……ここ、ツカサさんが拠点って言ってた……」


 どこかのマンションの一室。

 ツカサたちの拠点の一つ。


「大丈夫……大丈夫」


 場所が分かればもう怖くない。

 ミヤコは昨日の事を思い出しながら、もう一度大丈夫と繰り返す。


 繰り返しているうちに、ミヤコは再びうつらうつらと舟をこぎ始める。

 サイドチェストに電波時計が置かれているのが見えた。時間は朝の七時すぎ。

 時間を確認して起きなきゃと思いながらも、ミヤコはそのまま眠りに落ちていた。


 ミヤコが目を覚ましたのは正午を回ったころだった。

 時計の表示を見て慌てて部屋から飛び出し、一人リビングでノートパソコンを開き何か作業をしていたユカリに、平身低頭謝った。


「いいよいいよ、もうちょっと寝ててもいいと思うよ? これまで頑張りすぎてたミヤコ君の身体が、もっと休みたいって言ってるんだと思うし」


 むしろゆっくり眠れたようでよかったと安心した様子のユカリ。

 ミヤコも起きてきたことだし昼食にしようと、ノートパソコンを閉じる。


 昼食として用意されたのは大量のカレーと申し訳程度のサラダだった。

 鍋で作ったのではなく、レトルトカレーを十種類温めてそれぞれ器に盛りつけただけ。取り分けて食べるためだろう、すべての皿にスプーンが突っ込まれている。

 盛りつけこそ雑ではあるが、器は花や十二支のキャラクターの絵が味のあるタッチで描かれたかなりちゃんとした焼き物で、ミヤコはつい一つ一つの器の絵柄を確認してしまう。


「可愛いでしょ? 気に行ったならダブってるのあげるから言ってね」


 ミヤコは流石に食器は貰えないと、首を横に振る。


 ミヤコが大量のカレーに驚いているうちに、続いて深皿に盛りに盛られた白米、大皿に冷凍のナンとトーストしたテーブルロールが山と積まれ運ばれてくる。

 さらに飲み物も追加され、二リットルのペットボトルの他に、一リットルくらいはいりそうな大きなグラスにヨーグルトのような飲料、パックの牛乳とオレンジジュース、昨日も飲んだ野菜ジュースもあった。


 昨日のあれこれとミヤコに食べさせようとしていた行動を思うに、とにかく簡単に大量に食べるための工夫なのだと何となくわかった。


「この白いのはラッシーって言ってヨーグルトの飲み物。これがハヤシライスで、こっちとこっちとこれがビーフカレーで、こっちがグリーンで、レッドで、イエローで、エビのカレーでしょ、マッシュルームのやつでしょ、ポークカレー、バターチキン、キーマは見てわかるよね。ああ、辛さは辛口途中からばっかりだ。甘口が良かったなら今から温めるけど」


 どの絵柄の器にどのカレーを入れてあるか、ユカリが一つ一つ指さして教えてくれるが、見てわかると言われても、ミヤコにとってカレーは給食のカレー以外見知らぬ物。とりあえず一通り味見をすることにした。


 ミヤコが一番気に入ったのは、干しブドウとアーモンドがトッピングされたドライカレーだった。

 好きな味があるようでよかったと、ミヤコが特に美味しいと言及したカレーの品名をメモするユカリ。

 メモを見返しながら、思い出したようにミヤコに問う。


「あ、そう言えば近いうちに健康診断受けてもらうけど大丈夫?」


「あ、はい、それは大丈夫、です」


 バターチキンカレーをナンで食べながら、ミヤコはコクコクと頷く。


「それとねえ、ここはあくまでも繁華街に近い位置に確保してる拠点でしかないから、人が住む目的の部屋じゃないんだよね。だから明日は私たちの家に連れていくね。保護するための場所として書類にもそう書いてあるんだ。いいかな?」


「大丈夫、です、たぶん」


 グリーンカレーは白米と食べる。少し辛すぎたので牛乳で流し込んだ。辛さからの反動か牛乳が凄く甘く感じてミヤコは牛乳の入ってたグラスを二度見する。

 ユカリはミヤコのグラスにもう一度牛乳を注いでやる。

 ミヤコにとってカレーに牛乳はマストアイテムになったようだ。


「場所もここからそう遠くないから安心してね。それと明日もシオリさんが来てくれるって。ミヤコ君の事結構心配してるみたい。何かあったらいつでも言ってくださいだって。シオリさんちょっと意地悪な事言う時もあるけど、基本的に面倒見がいいからね、色々頼って大丈夫だよ」


 コクコクと頷きもう一度牛乳を飲むミヤコ。学校の給食の牛乳とは比べ物にならない美味しい牛乳に、ミヤコは夢中だった。

らくのうマザーズの牛乳は美味しいよ。熊本に来たら一度は飲んでね。

らくのうマザーズのコーヒー牛乳は凄く美味しいよ。コンビニにも置いてあるよ。

らくのうマザーズのCMはとっても形容しがたいよ。UFOから直接グラスに搾乳してくれるよ。

らくのうマザーズコラボ商品はソフトクリームがお勧めだよ。熊本城下、桜馬場城彩園にて食べられるよ。

っていう地元愛溢れる宣伝。

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