125.ミヤコ君と怪しい場所
少しずつ秋が近づいてきましたね。
栗の商品が店頭に並んでいるのを見ると、ああ秋だなあって思います。
熊本は栗の生産が盛んで、熊本県の栗の出荷量は全国二位です。
栗好きの人は、福田屋さんの「栗好き」ってお菓子を食べてみてください。
栗が好きだなあって思いますから。
「見るだけじゃ情報は足りないんだよね?」
駐車場で車に乗り込みつつ、ツカサがミヤコに聞く。
ミヤコはこくこくと頷く。
「じゃあ行って実際に接近してみるしかないか。ミヤコ君が見たそれが本当に地獄の花かはわからないけど、何か異界の流入っぽくはあるか。近くを徒歩でうろうろしながら……車から流し見でどこまでわかるか」
ユカリは車を発進させながら、どこまで車で行き、どこを徒歩で探すべきかと思案する。
「大江からあたりかなあ? でも九品寺くらいが怪しい気もするー」
ミヤコの知らない地名ではあったが、ミヤコが見ていた靄のある辺りの事だろうというのは分かった。
「ああ、あの辺りも世界の罅はいりやすいからね」
ツカサが納得する。
ユカリはそのままミヤコへの説明を続けようとする。
「聞いていてわかると思うけどどっちも地名なんだよね。で、大江と九品寺は何と言うか、うーん言っていいかな?」
が、途中で言葉を途切れさせてしまう。
躊躇うユカリに変わって、ツカサが説明を請け負う。
「前に説明した範囲だから大丈夫だよ。僕が代わりに説明するね。水前寺もそうだけど、大江とか九品時は基本的に水がわき出す場所なうえに、その流れが集まる場所なもんだから、世界の罅が入りやすいんだよ。それはもう昔っからで、黒江家が熊本に来た頃からだったそうだよ。そして九品時や大江周辺に学校が多いのは、交通の便がいいのもさることながら、そこに活気のある人間を多く配置しておくことで、世界の罅の隙間を埋める生命力を維持する為でもあるんだ」
ミヤコが見た時に、学校施設が多い場所だと感じたのは気のせいでは無かったらしい。
世界の罅が入りやすくても、すぐに修復できるというのなら、そこまで危険な場所では無いのだろう。
説明を聞く限り、もしかしたらミヤコが見た靄は、地獄の花とは関係ないかも知れないと思った。
しかしツカサはミヤコが見たその場所にこそ、何か事件につながるヒントがあると確信しているようだった。
「ただ……世界の罅が入りやすいってことは、異界からの流入が起こり易かったり、異界から流入した植物や生物の肥育がしやすかったりするのも確かだ。もしかしたらそれを逆手に取って、異界の流入を狙われてたのかも……地獄の花は流入の確認がそれなりにあるから、時間かけて網張ってれば見つけられちゃう可能性有るもんなあ」
「そうなんですか?」
ツカサの核心は何処から来るのかとミヤコが首を傾げれば、ツカサは大きくため息を吐きながら答える。
「そうなんです。世界の罅の罅が小さいとせいぜいこちらに落ちてくるのは植物くらいで、地獄の花は生命力ぴか一なうえに自力で世界の罅広げる性質があるからね。一説には、世界を越えて繁殖するための能力ですらあると考える研究者もいるくらいだよ」
本当に厄介、と呟くツカサの目は、かなり座っていた。
車をほんの少しは知らせたところで、ミヤコがあっと声を上げ窓の外を指さした。
「あのマンションです」
「やっぱり大江かあ」
ユカリは場所の予想がぴったりと当たったというのに浮かない声を出す。
右折できる車線へと移動すると、解体工事をしているらしき施設横の道へと入っていく。
ユカリは適当に車を停める。
例の高層マンションが目と鼻の先にあった。
ミヤコはしっかり確認しなくてはと目を瞠る。
すると気が付く事があった。
「あ……なんか、薄っすら靄がかって見えます」
具体的にどうというのは難しいが、ミヤコの視界では、先ほどまで車が走っていた電車通りも含め、この周辺が薄っすら暗く感じた。
「じゃあ具体的にどこが靄の中心地点か分かる?」
ツカサに問われて周囲を見回すも、本当に薄ぼんやりと靄が広がっているように感じるばかりで、どこがそうだと言いようがない。
「えっと、分からないです。車から降りて見なきゃ……」
ならば降りようとツカサが促し、ユカリ以外全員が降りた。
「適当に停めてくるから行ってきて」
ユカリは駐車場を探すというが、それにはマコトが待ったをかける。
「俺が行くからユカリがツカサの面倒を見ろ」
「ちょっと、何で僕の面倒なの」
マコトの言葉にツカサが抗議の声を上げるが、マコトもユカリも取り上げる気はないようだ。
「ありがとうマコトちゃん。じゃあ車置いたら連絡頂戴。すぐにこっちの居場所教えるから」
ユカリはマコトに礼を言うと、車の後ろに回り、蛍火捕獲の時にエモトが持っていたような黒い鞄を取り出した。
「ああ、そうしてくれ」
淡々と車の運転を交代し、マコトとユカリは連絡を取り合う約束をする。
ツカサは自分の信頼の無さに、唇を尖らせて拗ねるばかり。
マコトの運転する車が発進しても、ツカサが膨れ面で拗ねているので、ミヤコはツカサのシャツの袖をつまんで引っ張る。
「あの……多分こっち……ですよ」
車から降りて少し周囲を観察してみると、薄暗い靄の濃い方が有った。
高層マンションの傍だが、もっと道の奥にその靄の発生源があるような気がして、ミヤコはツカサを案内しようと指をさす。
「ああ、そっか、うん、ごめんねミヤコ君、行こうか」
ミヤコに促されて、ツカサは拗ねるのをやめ、ようやく徒歩での調査に動き出した。
秋と言ったらサツマイモも美味しいです。熊本ではカライモと呼びます。
カライモの入った蒸し団子「いきなりだご」は郷土の味です。
これからどんどん寒くなっていく時期に美味しさが増していくので、是非食べてみてください。