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11.ミヤコ君の処遇

 ミヤコが熊本に来て初めての晩は野宿だった。だから疲れが完全に取れずにいたのだろう。夜十時を回る前にミヤコはすっかり眠ってしまっていた。

 身を胎児のように丸めてソファーで眠るミヤコを、ツカサはクスクスと笑う。


「あらら、ソファで寝ちゃったね」


 晩の食事はコンビニ弁当と菓子パンすませ、風呂にも入ってもらい、シオリの持って来た着替えの中から簡単にTシャツとハーフパンツを選んで着てもらっていた。さすがに下着はマコトが帰りに買ってきた物だ。

 ミヤコがこんなにも清潔な状態で、夜に暑さ寒さに悩まされず眠れるのは七年ぶりだった。


「疲れてたんだろうね……最近夜も暑いし、もしかしたらろくに眠れてなかったのかも」


 ミヤコの境遇はもうすっかり分かっていた。

 昼間に四十度を超えていたコンテナが、夜間だからと過ごしやすいはずもないだろう。

 食事を腹いっぱい食べる事も、清潔な服も、汗を拭くタオルだって無かった事だろう。


 元々そこにはミヤコを苦しめようという悪意が無かっただろうことは分かっていた。でなければ何百万円もかけて庭にコンテナハウスなど用意しない。

 元は単純な恐怖。

 異界返りと呼ばれるミヤコの容姿、異能に怯えていただけだったのだろう。

 何せミヤコ一人が屋内にいるだけでそこはプライベートな空間とは呼べないほどに全てが筒抜けになる。


 だからこその隔離だったし、放置だった。

 それでもミヤコが当たり前のように生きていたせいで、自分たちの行いは悪い事ではないと正当化していったのだろう。

 それがやがてエスカレートし虐待へと変わっていったのには何か理由があったのかもしれないが、そんなことはツカサたちには関係なかった。

 

 衣食住満たされてようやく安心したのだろうが、ただ無防備というには身を丸めて防御姿勢を取っているのが痛々しい。

 そのミヤコの姿だけで、ツカサにとってミヤコの叔父家族は嫌悪に値した。


「いつかはちゃんと責任取ってもらわなきゃねえ」


 のんびりと呟くツカサに、そんなことよりもとマコトが嫌そうに口を挟む。


「ベッドに寝かせてやれよ」


 マコトがそう言うので、ツカサはできる限りミヤコを揺らさないよう、影を伸ばしてミヤコの下に潜り込ませ、そのまま持ち上げる。

 ミヤコは僅かに身じろぐ。ユカリが小声でツカサに注意する。


「起さないように気を付けてねー」


「うん分かってる。大丈夫」


 ツカサは座ったまま影だけでミヤコを隣室のベッドの上へ運び、タオルケットをかける。


「相変わらずお前のそれは気持ちが悪い」


 ツカサの異能を横目に見ながらマコトが吐き捨てる。そんなマコトの言葉にツカサは僅かに嬉しそうに口の端を持ち上げる。


「だよねー。僕も気持ち悪い」


 クスクスと音にして笑うツカサにマコトは視線を合わせない。

 ユカリはそんな二人を見てため息を吐く。


 ツカサの扱う影を憎々しいと言わんばかりに睨み付けるマコト。

 昼はその影を使ったからこそあんなにも素早く事態の収束宣言を出せたというのに。ユカリはもう一度ため息を吐く。


 巨大な馬の目の前に閃光弾を放った後、ツカサの黒い影は巨大馬へと延び、その足を攫い大きく転倒させていた。

 転倒した馬の足があまり勢いよく暴れないよう、マコトが足首を落としやすいように軽く肩関節周りも拘束し締めて動けないようにしていた。

 画面越しでは見えにくかったが、ユカリはちゃんとツカサが何をやったか把握している。


「あーあ、明日ミヤコ君の前ではそんな態度取っちゃ駄目だからね。委縮してここに居たくないって思われちゃうかもしれないんだから」


 明日の話をするならと、マコトが自分の予定を伝える。


「いや、今晩はもう帰って、明日俺は事務所の方に行く。坊主がいる内にここには戻ってこないだろう。巨大馬の処理の方でまだやらなきゃいけない事があるんだ。だからまあ……お前らはここで待機してろ。たぶん連絡が来るはずだ」


 マコトの言葉を受け、ユカリはスマホを取り出しスケジュール管理アプリを立ち上げる。


「ああそうね、そっかうん……じゃあ私は明日ここで仕事してようかな。部屋にずっといてミヤコ君見てるから、ツカサちゃんが外出なきゃいけない用事済ませてよ。備蓄食料大放出しちゃったしさ、お買い物大事大事。一応乾麺とかはあるけど作るの面倒だし冷凍食品の在庫増やしたいなあ。明日は会社の方の予定は特に何もなかったよね? 通常業務も報告書読むくらいでしょ? 家出できる範囲だったら私が代わっとくよ。出勤する必要ないだろうし、食料って言うか重いから飲料の買い出しは絶対してほしいな。箱で買ってきて。それでわたしは……えっとねえ……明日の仕事かあ。資料の取り寄せはここで出来るとして……うーん、普段から待機組だし特に忙しくないのよね。時間余るかな? でも必要な物のリストアップとかしとけば時間潰れるか……車白いの使ってねえ。緑のやつは私がいざという時に使いたいから」


 元々会社の方でも庶務という肩書で備品の管理や雑務をメインに、事務所に常時待機できる仕事をしていたユカリは、仕事場所を今いる拠点、マンションに一室に据えて行うと宣言する。


「あれ?僕の仕事勝手に決められてる。まあいいけど」


 庶務の一環として、ツカサのスケジュール管理も任せていたので、ユカリはツカサの了承を得ずにサクサクと予定を決めてしまう。

 明日の予定が決まればさっそくとばかりに、ユカリは会社の方へ連絡のメッセージを送り、マコトもそれを待って自宅へと帰っていった。

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